海外テニス

「チームのみんなのために…」失意の敗戦から一転、21連勝の快進撃を続ける大坂。その成長の理由とは?

内田暁

2021.02.22

全豪のトロフィーを掲げる大坂。この1年で一皮も二皮も剥けた様子だ。(C)Getty Images

 ボールがラインを越えるのを確信した時、彼女は、両手でつかんだラケットを頭に乗せると軽く飛び跳ね、心からうれしそうな笑みを顔中に広げた――。

 それは、今まで見た大坂なおみのグランドスラム優勝のうち、間違いなく、もっとも素直に喜びを表出した瞬間だった。

 初のグランドスラム戴冠となる2018年の全米オープンでは、流す涙を隠すかのように、サンバイザーのつばをぐっと深く押し下げた。

 翌年1月の全豪オープンでは、精魂尽きたようにその場にしゃがみこむ。

 そして昨年9月の全米では、無観客という異例の決勝の舞台の中で、目元を手のひらで覆い、天を仰いで息を大きく2度…3度と吐き出した。
 
 だが、今回はそうではない。

 ブーイングや静寂の代わりに、暖かな拍手と歓声があった。

 ファミリーボックスで一斉に立ち上がり、円陣を組んで喜びを分かち合うチームスタッフの姿があった。それは、ただただ純粋に、歓喜と祝福の光景だった。

「確かに、過去とは異なる感情だったと思う」

 試合後の彼女は、栄冠の瞬間の心境について、そう認める。
 
「前回ここで優勝した時の私は、怒りを原動力にプレーしているような感じだった。ツアーにおける自分の立ち位置を刻印しようと必死で、全米と全豪の連続優勝にこだわっていた」

「でも今回の私は、ずっと心穏でいられた。このようなパンデミックの状況下で、グランドスラムでプレーできることそのものがうれしかった。だから今は、とても平穏な心持ちなの」

 2年前――自身の存在証明を刻印すべく頂点へと疾走した21歳の彼女は、トロフィーを抱いてなお、心の平穏を得ることは無かった。

 優勝と同時に手にした、「世界1位」の肩書。それに付随する「女子テニス界のリーダー」「ロールモデル」という責務が、彼女の胸を圧していたからだ。

「ものすごく大きな責任感を覚え、怖くもあったし神経質にもなっていた。試合でラケットを叩きつけたりしたら、ロールモデルに相応しくないと思われるのではないかと、恐れていた」

 それほどの重圧がありながら、最終的に安寧を手にできた理由とは、何なのか――?
 
 繰り返し向けられてきたそれらの問いに、彼女は丁寧に、同じ答えを繰り返してきた。

「私のチームの人たちと、話すこと。いつも試合の1時間前に、私たちは話す時間を持ってきた。自分がこれまでしてきたこと、どこをゴールに何を成し遂げたいと思っていて、コートを去る時にどんな想いでいたいか……それらを話してきた」
 
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2年前までは自分がロールモデルでいることが「怖かった」