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海外テニス

44年の空白に終止符を打ったバーティー。異変を感じた天才はプランBを実行し憧れの恩師と共に表彰台へ<SMASH>

内田暁

2022.01.31

全豪オープンに優勝したバーティー(右)は、プレゼンターでイボンヌ・グーラゴング(左)が登場し満面の笑みを浮かべた。(C)Getty Images

全豪オープンに優勝したバーティー(右)は、プレゼンターでイボンヌ・グーラゴング(左)が登場し満面の笑みを浮かべた。(C)Getty Images

 彼女が大きなタイトルを取る度に、必ず、ソーシャルメディアに流布する写真がある。ぶかぶかのワンピースを着た少女が、背の丈ほどのラケットを右手に持ち、左手にはトロフィーを握っている一枚。

 試合中にスコールに見舞われたのだろうか、コートは水浸しで、濃紺のウェアにも水滴の跡が残る。だが少女が、雨も気にならぬほどうれしいことは、口角を上げて目を光らせる、無垢な笑みに明らかだ。見る者を思わず笑顔にする写真の少女は、当時6歳の、アシュリー・バーティーである。

 それから19年経った今年の1月。25歳になった写真の少女は、第1シードとして、母国開催のグランドスラム制覇に挑んでいた。ジュニア時代には、スポーツ大国を自負するオーストラリアの過剰な期待を背負い込み、心を壊しかけテニスを離れたこともある。

 2年間の“準引退”を経て、「テニスがしたい」と心から思えた後は、今も師事するコーチのクレイグ・タイザーと共に、文字通りゼロから新たなキャリアを歩み始めた。

「復帰した時の彼女は、グランドスラムで優勝できるとは考えていなかったと思う。ただ彼女は、テニスが好きだった。挑戦できることにワクワクしていた」。約6年前の日を、タイザーは回想する。
 
 その「ワクワク」を推進力に、彼女はテニス少女がそのまま大人になったかのように、復帰後は楽しそうにコートを駆けていた。

 2019年の全仏オープンで初のグランドスラムを取った時も、そして“44年ぶりのオーストラリア人全豪オープン制覇”の期待が掛かる今大会でも、その風情は変わらない。テレビ解説をつとめたジム・クーリエが「フェデラー以上」とまで絶賛した変幻自在のスライスを操り、相手を手玉に取る姿は、テニスボールと戯れるよう。一つのセットも落とすことなく、日々高まるファンの声援を追い風にして、彼女はデニエル・コリンズが待つ決勝まで駆け上がった。

 決勝のバーティーが微かな“異変”を示したのは、最初のゲームで、得意のスライスが大きくラインを割った時だったろうか。もっともその兆しは、完璧に近いサービスによって隠され、すぐに表面化はしない。

 だが第1セットを6-3で奪った後の第2セットで、様相が変わり始めた。準決勝までの鋭さや精度が削がれたスライスは、バックの強打を最大の武器とするコリンズの餌食になる。瞬く間にゲームカウントは、コリンズの5-1リードと広がった。
 
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