海外テニス

「スポットライトを浴びるのは私よ!」自らの野心のために、才能豊かな娘の将来を狂わせるステージママの横暴

レネ・シュタウファー

2019.12.08

2016年の全仏ジュニアで優勝した時のレベッカ・マサロワと母親のマリビ。娘が結果を出せば出すほど、母の野心も膨らんでいった。(C)GettyImages

 2年前にコラムで「スイスにすごい天才児が現れた」と書いた。ロジャー・フェデラーと同じスイスのバーゼル出身で、そのフェデラーに憧れてテニスを始めるや瞬く間にトップレベルに到達したレベッカ・マサロワのことである。

 当時16歳だった彼女は、全仏ジュニアで優勝、WTAツアーのデビュー戦となったグスタード大会ではベスト4に進み、翌年には全豪ジュニアで決勝の舞台に立つなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。

 16歳ですでにWTAランキングのトップ400に入っていたレベッカだが、最近は彼女に関する話を聞くことがなくなっている。それは実のところ、2017年に彼女を巡る大きな動きが発生したことで、環境が大きく変化したからだった。

 スイス生まれのレベッカはこれまで、「ベリンダ・ベンチッチ、ティメア・バチンスキーらと一緒にフェドカップに出場したい」と語るなど、国家を代表しての出場を夢見てきた。

 ところが2018年1月に公表された最新の世界ランキングを見ると、レベッカの国籍欄にはスイスではなく、スペインの国旗が掲載されているではないか。いったい、どういうわけなのか。
 全ては彼女の母マリビによる画策だった。スペイン生まれのマリビは娘と6年間、バルセロナに住んでいたことがあり、娘にスペイン国籍も取らせていた。ここ数年、母は娘のコーチ役を務めているが、それは4人の子どもの中でもっとも優秀なレベッカを「最低限のコストで育てたい」からだとされる。

 その流れからマリビは、あのステフィ・グラフを12年にわたり指導し、またスイスのフェドカップ・チームを任される世界的名コーチであるハインツ・ギュンタード氏のアドバイスさえ完全に無視する始末で、ギュンタード氏が何を言ってもマリビは興味を示さないという。マリビが娘のキャリアップを手助けしようとする外部の人間を一切信じようとしないのは、実に困ったものである。

 17年12月、レベッカが母の思いに逆らう恰好で自発的にスイステニス協会のトレーニングセンターを訪れ、仲間と一緒に汗を流したのを知るや、マリビは即座に「娘を誘拐した!」として協会側を激しく罵り、センターから娘の身柄を取り返した。そしてWTAに対しては「レベッカは今後、スペイン人としてプレーしていきます」と一方的に伝えた。
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スイス協会との絶縁宣言した母親に対し、協会側も黙ってはいなかった…