海外テニス

恩師グローネフェルトが明かすダニエル太郎、躍進の理由。「ファンとのコネクト」が生んだ絶大なエネルギー<SMASH>

内田暁

2023.03.25

スタンドのファンにしっかり目を向けることでつながりが生まれ、エネルギーが得られる。ダニエル太郎はその効果を肌感覚で知り、好調の波に乗った。(C)Getty Images

 温厚な笑みに、誰に対しても柔らかな物腰。

 その立ち居振る舞いを見るだけでは、彼がロジャー・フェデラーやマリア・シャラポワら、数々の世界1位のコーチを歴任した名伯楽だといっても、ピンとこないかもしれない。だがひとたび語り始めれば、溢れるテニスへの情熱と明瞭な語り口が、聞く者を強烈に引き込む。

 2019年末に、ダニエル太郎が「僕も20代後半。勝負をかける歳」だと覚悟を決め、コーチを依頼したのが、このきらびやかな履歴を誇るスベン・グローネフェルト氏だ。

 そこからの約2年半で、ダニエルのプレーは革命的な変化を見せた。

 サービスのスピードや精度が格段に上がり、時には果敢にネットにも出ていく。ベースライン近くにポジションを取り、フォアで主導権を握る姿は、かつての「守備の人」のイメージとは完全に趣きを異にした。

 さらにグローネフェルト氏は、ダニエルの内面を変えるため、旧知のスポーツ心理学者のジャッキー・リールドン氏をもチームに招く。

 現在のダニエルは、リールドン氏との契約は満了。グローネフェルト氏とは「アドバイザー」の関係にあるが、毎日のように電話やテキストで連絡を取り、現在開催中のマイアミ・オープンのようにタイミングが合えば、対面での指導も受けている。

 ダニエルにとってグローネフェルト氏とリールドン氏は、今も「多くを教えてもらった」と感謝する恩師にして友人だ。
 
 技術面でグローネフェルト氏が多くの改変をダニエルにもたらしたのは、今の彼のテニスを見れば明らか。ただ経験豊富な名コーチは、なぜダニエルの「内面の変化」も必須だと思ったのだろうか?

「太郎と"コネクトする(つながる)"のは、なかなか難しかったんです」

 笑顔で回想する氏の言葉は、英語とスペイン語を操り、社交的な印象の強いダニエル評としては、実に意外だった。

「確かに彼は、コミュニケーション(会話)が上手です。でもコーチと選手は、もっと深い部分で"コネクト"しなくてはいけない。そこには時間が掛かりました。太郎は色々と考え、自分で抱え込むところがあるからです」

 だからこそ就任直後の新コーチは、リールドン氏の助けを求めた。ダニエルに必要なのは、他者と真の意味で「コネクト」すること。それも、コーチやトレーナーとだけではない。グローネフェルト氏は、「ファンとのコネクト」こそが、ダニエルに必要な要素だと言った。

「ジャッキー(リールドン)はダニエルに、ファンからのエネルギーを得る方法を教えてくれた。本当に大きな仕事をしてくれたと思います。試合中も、客席に向けて拳を振り上げ、ファンを盛り上げる。するとファンからエネルギーを得られる。太郎に必要なのは、そこでした」
 
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