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海外テニス

『手負いのジョコビッチ』がいかに危険な存在かが証明された、アルカラスとの全豪オープン大逆転劇<SMASH>

内田暁

2025.01.23

試合序盤から足を痛めながらも対戦相手の揺れ動く心理を見事に読み切って逆転勝利を引き寄せたノバク・ジョコビッチ。(C)Getty Images

試合序盤から足を痛めながらも対戦相手の揺れ動く心理を見事に読み切って逆転勝利を引き寄せたノバク・ジョコビッチ。(C)Getty Images

 試合とは、23.77m×10.97mのテニスコート内だけで、完結するものではない。刻一刻と変わりゆく戦況の中で、相手の心の動きを読み、自身を律し、戦略を立案し、そして、遂行する―。その総力戦において、ノバク・ジョコビッチ(セルビア/世界ランキング7位)がいかに突出した存在であるかを、彼は全豪オープン準々決勝で、改めて示してみせた。
 
 2023年末にジョコビッチは、米国の情報番組『60 Minutes』に出演した際、試合中に得た情報をいかに活用しているかについて、次にように語っていた。

「チェンジエンドの際、スクリーンに映される相手の姿を、観察するようにしている。どれくらい水を飲んでいるか? いつもより汗をかいているか? 呼吸はどうか? 彼がチームとどのようなやり取りをしているか? これら、パフォーマンスや試合そのものに影響を与える要素を確認するんだ」

 今大会の準々決勝戦でも、彼はこの類まれなる観察眼と戦略性を、21歳のカルロス・アルカラス(スペイン/同3位)を攻略するために総動員する。

 第1セットのゲームカウント4-4、15-15の場面。アルカラスはドロップショットでジョコビッチを釣り出し、パッシングショットを叩き込むと、耳に手を当てファンの歓声を求めた。

 その直後、ラリー中のコードボールを詫びるためジョコビッチの方を向いた彼は、ドロップショットを追った相手が、足を痛めた様子を目にする。ジョコビッチがメディカルタイムアウトを取ってコートを去ったのは、アルカラスがこのゲームをブレークした直後。21歳の世界3位が、勝利を大きく手繰り寄せたかに見えた。
 
 この時、試合の潮目を大きく変えうる小さな心の動きが、両者の間で交わされたことに気付いた者は、少なかっただろう。

「僕は試合をコントロールしていた。なのに、相手に息を吹き返させてしまった」

 試合後にアルカラスが、悔いをかみ殺すように振り返る。

「第2セットでは、相手を限界まで追い詰めなくてはいけなかった。それができなかったために、彼はどんどんプレーのレベルをあげてきた」

「それが、最大の過ちだった」―と、彼は言った。


 その「最大の過ち」の根源には、足を引きずる相手の姿を見た時の、心の揺らぎがあっただろう。

「相手の動きが明らかに落ちた時、これで楽になると思ってしまう。同時に、『それまでとは違うプレーをしないと』と思ってしまった」とアルカラスは言った。
 
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