エバート氏に再会した後のグロリアは、前にも増して、ジミーを激しくけしかけることになる。かつての恋人に対抗意識を燃やした結果だった。つまり、どちらの子どもがより優れたプレーヤーになるか、競争しようというわけだ。
尻をたたかれる方のジミーもたまったものではなかった。しかし、少年時代の彼は、母親の前では逆らったりしなかった。その従順さは青年期まで続く。たとえば、こんな象徴的なシーンがあった。当時のことをクリスが回想している。
1972年。ジミーは20歳になっていた。ウインブルドンの前哨戦ともいうべきクイーンズ・クラブでのトーナメントの日、ジミー親子とクリス親子は偶然出会った。ジミーのそばにはグロリアがピタリと寄り添っていた。
この親子は、プレーヤーの間でちょっとした評判になっていた。それはそうだろう。20歳にもなった一人前の男子が、“母親連れ”でサーキットをまわるなんて、これまで聞いたこともなかった。
グロリアは出しぬけにジミーに言った。「ジミー、ウインブルドンでミックスを組まないかって、クリスに頼んでみたら?」言われたジミーは、母親の言葉をクリスに向かってただ繰り返した。
「ウインブルドンでミックスを組んでくれないか?」
「ありがとう。でも、もうパートナーが決まっているのよ」とクリス。
「じゃ、USオープンを頼んだら?」
すかさずグロリアはジミーに問いかける。
「USオープンはどうだい?」
グロリアのいうままに、ジミーはクリスにそう聞いた。
「ええ、いいわ」
とクリスは答えた。しかし、ジミーの本心がつかめなかった。単に母親を満足させるためだけに、ジミーがミックスを申し込んできたと思えたからだ。まるで主体性のないジミーにクリスはもの足りなさを感じた。
こんなこともあった。クイーンズ・クラブのトーナメントで、クリスとジミーは優勝した。ジミーが優勝した直後、クリスはグロリアに呼び止められた。
「待っているように伝えてくれって、ジミーに頼まれたんだけど、ご都合は? 今、シャワーを浴びているのよ」。クリスは少し待ったけれど、来る様子がないのでホテルに戻ってしまった。デートの申し込みを母親に頼む人っているのかしら。そんな不信感がクリスの心に充ちていた。
尻をたたかれる方のジミーもたまったものではなかった。しかし、少年時代の彼は、母親の前では逆らったりしなかった。その従順さは青年期まで続く。たとえば、こんな象徴的なシーンがあった。当時のことをクリスが回想している。
1972年。ジミーは20歳になっていた。ウインブルドンの前哨戦ともいうべきクイーンズ・クラブでのトーナメントの日、ジミー親子とクリス親子は偶然出会った。ジミーのそばにはグロリアがピタリと寄り添っていた。
この親子は、プレーヤーの間でちょっとした評判になっていた。それはそうだろう。20歳にもなった一人前の男子が、“母親連れ”でサーキットをまわるなんて、これまで聞いたこともなかった。
グロリアは出しぬけにジミーに言った。「ジミー、ウインブルドンでミックスを組まないかって、クリスに頼んでみたら?」言われたジミーは、母親の言葉をクリスに向かってただ繰り返した。
「ウインブルドンでミックスを組んでくれないか?」
「ありがとう。でも、もうパートナーが決まっているのよ」とクリス。
「じゃ、USオープンを頼んだら?」
すかさずグロリアはジミーに問いかける。
「USオープンはどうだい?」
グロリアのいうままに、ジミーはクリスにそう聞いた。
「ええ、いいわ」
とクリスは答えた。しかし、ジミーの本心がつかめなかった。単に母親を満足させるためだけに、ジミーがミックスを申し込んできたと思えたからだ。まるで主体性のないジミーにクリスはもの足りなさを感じた。
こんなこともあった。クイーンズ・クラブのトーナメントで、クリスとジミーは優勝した。ジミーが優勝した直後、クリスはグロリアに呼び止められた。
「待っているように伝えてくれって、ジミーに頼まれたんだけど、ご都合は? 今、シャワーを浴びているのよ」。クリスは少し待ったけれど、来る様子がないのでホテルに戻ってしまった。デートの申し込みを母親に頼む人っているのかしら。そんな不信感がクリスの心に充ちていた。