「どっちが勝ってもおかしくない試合」であり、勝敗を分ける数ポイントを取り切った相手の成長を、錦織は「去年くらいから急にパワーもついた」とも評した。錦織を驚かせたコルダの急成長の礎は、コロナ禍によりツアーが中断された、昨年の5か月間に築かれたという。
「幸運にも、僕の家のすぐ隣にコートがあるし、周囲には素晴らしいスタッフや選手たちがたくさんいた。パウロ・ロレンツィやマイケル・モー、それに優秀なジュニアたちと毎日のように練習ができた。5~6か月間、しっかり身体づくりをできたことも僕には大きな助けになった」
フィジカル強化に努め、父と共に技術と戦術研鑽にも励んだ期間を経て、ツアーが再開した昨年の8月以降、コルダは全仏オープン4回戦進出などの急発進を見せる。イタリア開催のエミリア・ロマーニャ・オープンのタイトルは、コルダに「11年ぶりに、欧州でツアー優勝したアメリカ人選手」の肩書を与えもした。
プラハにも拠点を持つコルダは、長い欧州シリーズも苦にせず、急成長の季節を疾走している。ただ、父の栄光が照らす道を歩むことは、多大な重圧を伴うプロセスではないのだろうか?
その問いを20歳は、言下に否定し、こう続けた。
「父親は、多くの人たちが夢見るグランドスラム優勝者となり、世界2位にもなった。多くを成し遂げた父親の息子と見られることは、僕にとって栄誉以外のなにものでもない。姉もゴルフで素晴らしい成果を挙げているし、父の功績がプレッシャーだと感じたことは本当にないんだ」
多くの人が重圧と捉えるであろう局面をも、この20歳は「光栄」と受け止めるしなやかさを持つ。錦織との試合後も、「こんな緊迫感のある試合を、ケイとできることがうれしかった」と振り返り、チャンスを取り切れない時にも、「これが世界の終わりではない。またチャンスは必ず来ると自分に言い聞かせていた」と言った。
謙虚なサラブレッドは地に足をつけ、なおかつ一足飛びにランキングを駆け上がり、父の至った高みを目指す。
取材・文●内田暁