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海外テニス

立てるのかさえ不確定だった全豪の舞台で、観衆と共に奇跡のカムバックを果たしたナダル「負けるのは、仕方ない」<SMASH>

内田暁

2022.02.01

準決勝に勝利した後、ベンチで肩を震わせるナダルの姿が、今までの道のりの困難さを物語る。(C)Getty Images

準決勝に勝利した後、ベンチで肩を震わせるナダルの姿が、今までの道のりの困難さを物語る。(C)Getty Images

 2012年には、ジョコビッチと“グランドスラム史上最長決勝戦記録”となる5時間53分の死闘の末に、敗れた。2014年の決勝戦では、ケガで思うように動かぬ身体を引きずりながら、それでも最後までコートに立った。2019年は、決勝まで完璧に近いプレーで勝ち上がりながら、決勝でジョコビッチに完敗を喫している。

 かつては、王者ロジャー・フェデラーに立ち向かう若さの象徴だった彼も、35歳。今大会では、25歳で世界2位のダニール・メドベージェフに挑む立場で、6度目の全豪オープン決勝の舞台に立っていた。

 決勝戦の最初の3ゲームに20分を要した時、記者席では「これは2012年の再現になりそうだ!」と色めきたった声があがった。ナダルが強打で攻めれば、それ以上の鋭さでメドベージェフがカウンターを返す。その構図はまさに、10年前のジョコビッチ対ナダル戦を彷彿させた。

 だがその後、ナダルのフォアは精度を欠き、力なくネットを叩く場面が増えていく。ナダルのアンフォーストエラーが20を超え、第1セットが6-2でメドベージェフの手に渡った時、今度は「これは2019年の再現になりそうだ」と、記者席のトーンは急激に下がる。第2セットも世界2位が奪い、第3セットの第6ゲームでメドベージェフが3連続ブレークポイントを握った時には、多くの記者がメドベージェフ優勝の原稿を書き始めた。

 直後に、ナダルが柔らかなドロップショットを沈めた時も、歓声を上げたナダルファンですら、それが奇跡へのターニングポイントになるとは、信じられなかっただろう。
 
 実際に、何かが劇的に変わった訳ではない。ただ、十代の頃から変わらぬ武器であるフォアの強打、そしてこの数年で急激に磨きをかけたネットプレーで攻めるナダルの姿は、間違いなく人々の心を打った。

 彼がシューズの摩擦音を響かせて走り、声を上げてボールを叩き、そしてポイントを決めるたびに、観客の大歓声でロッド・レーバー・アリーナが震えた。

 後に、ナダルは語っている。

「負けるのは、仕方ない。彼(メドベージェフ)が勝つのも仕方ない。ただ、試合を明け渡すことはできない」と。
 
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