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海外テニス

立てるのかさえ不確定だった全豪の舞台で、観衆と共に奇跡のカムバックを果たしたナダル「負けるのは、仕方ない」<SMASH>

内田暁

2022.02.01

世界2位のメドベージェフに挑み、観客の応援を背に奇跡の逆転勝利を果たしたレジェンド。(C)Getty Images

世界2位のメドベージェフに挑み、観客の応援を背に奇跡の逆転勝利を果たしたレジェンド。(C)Getty Images

 この危機を切り抜けたナダルが、第9ゲームをブレークし、続くゲームをラブゲームでキープして第3セットを取り返した時、客席はますます熱を帯び、そしてメドベージェフは、苛立ちを明らかにした。

 特に、サービスがフォールトになった際に上がる歓声に関しては、主審にたびたび「注意してくれ」と抗議している。時間の経過とともに威力を増すナダルのフォアへの畏怖、そしてアウェー感を増す環境が、エネルギーの消費を加速させただろう。第4セットの中盤、疲労の色を濃くするのは、25歳のメドベージェフの方だった。

 対して疲れを知らぬかのようなナダルは、第4セットも奪い返す。試合時間は4時間を超え、時計の針は23時59分を指すなか、決勝戦は最終セットに突入した。

 第5セットでは、今試合が始まったばかりかのように攻めるナダルが、フォアをダウンザラインに叩き込み第5ゲームをブレークする。だが、すんなりとは終わらない。勝利へのサービスゲームを、ナダルはダブルフォールトも絡めて落した。

「過去の敗戦の記憶がよぎった」ことを、ナダルは否定しない。それでも再び「諦めるな」と自分を奮い立たせ、直後のゲームをブレークした。
 
 迎えた2度目の、勝利へのサービスゲーム。もはや、彼の優勝を阻むものはなかった。深くサービスを打ち込み、浅い返球をフォアの逆クロスで叩くと共に、迷わず前へ――。

 バックのボレーが5時間24分の死闘に終止符を打った時、彼はコートに大の字になることも、その場に崩れ落ちることもしなかった。ラケットを落とし、顔を覆った両手を腰に当てると、信じられないというように、ただただ頭を振るだけだった。
 
 6週間前には、「二度と戻ってこられないかも」と諦めかけたロッド・レーバー・アリーナに、不屈の男は、万雷の拍手と歓声を浴びて立っていた。

 単独史上最多となる、21度のグランドスラム優勝者として。

現地取材・文●内田暁

【連続写真】ヒジ主導でテイクバックしてパワーを生み出す、ナダルのフォアハンド
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