父親がクリスに与えた三鉄則
信仰はクリスの精神面にもかなりのプラスとなった。彼女がジュニア・プレーヤーのとき、試合中に何度も祈りをささげたことがあった。相手にリードされ、そのまま負けてしまいそうな不安にかられたときだ。
「神様、どうか勝たせてください。もし願いを聞いてくださったら、2度と両親にさからったりしませんから――」。神に祈ると、不思議と気持ちが落ちついて、逆転勝ちすることも何度かあった。もっとも翌日になるとケロッとして、親に向かって悪態をついてしまうのだったが――。
忍耐強い家風と厚い信仰。そして父親ジミーの厳しいしつけ。実生活におけるクリスは、自分を上手にコントロールすることを大いに学んでいった。
次は、テニスコート上で“辛抱強さ”をどう身につけるかということだ。先に、ジミーはクリスに技術的なアドバイスはしてないと述べた。しかし、戦術面においては話は別である。ジミーはクリスを100%洗脳しようと試みているのである。
結果的に、ジミーの言うことは正しかった。クリスがあれほどの成績を残せたのも、ジミーの言葉を忠実に実行したからである。
ジミーは少女だったクリスに、三つの鉄則を口がすっぱくなるほど言い続けた。
一つ目は、ポイントを取るためにハードヒットしようとしてはいけないということだ。むしろ、ひたすらボールを打ち返していれば、結果的にそれがポイントにつながると教えた。能力的にみて、ネットプレーヤーになることがむずかしいと考えたジミーは、クリスが持つ自制心をより生かそうとしたのである。
二つ目は、70%から80%の確率でファーストサービスを成功させるということだ。
「ファーストサービスが入ればプレッシャーから解放されて、伸び伸びプレーができる。自信も持てる。だが、ファーストサービスが入らないと、力みが出て、他のショットにも影響するものだ」
ジミーはよくそう言った。ファーストサービスをゲーム運びの根幹に置いたのだ。これは何も速いサービスを入れろということではない。それは速いサービスにこしたことはないが、むしろ確実に入れることを優先させるべきだと教えたのである。
三つ目は、フットワークを中心とした練習を数多くすべきだということだ。すぐれたプレーヤーは全てすばらしいフットワークを身につけているというのがジミーの持論だった。それには練習しかない。クリスは徹底的に走らされた。ボールに素早く反応し、素早く動くことに関して、クリスは当時女子ナンバーワンだった。それはジュニアの頃、ジミーによって来る日も来る日も走らされた賜物である。
以上、三つの鉄則をまとめると、ファーストサービスを確実に入れ、素早い動きで相手のどんなボールも拾いまくり、相手をジワジワ追いつめながらミスを誘う、ということになる。
精神力が強靭でなければできないテニスである。しかし、クリスはそれを可能にした。”辛抱強い”性格をテニスのプレーに生かすことに成功したのである。もちろん、エバート家の伝統と父親ジミーの教えが後押ししてくれたことは言うまでもない。ありがたいのは血のつながりというものである。
文●立原修造
※スマッシュ1987年1月号から抜粋・再編集
【PHOTO】ボルグ、コナーズ、エドバーグetc…伝説の王者たちの希少な分解写真/Vol.1
信仰はクリスの精神面にもかなりのプラスとなった。彼女がジュニア・プレーヤーのとき、試合中に何度も祈りをささげたことがあった。相手にリードされ、そのまま負けてしまいそうな不安にかられたときだ。
「神様、どうか勝たせてください。もし願いを聞いてくださったら、2度と両親にさからったりしませんから――」。神に祈ると、不思議と気持ちが落ちついて、逆転勝ちすることも何度かあった。もっとも翌日になるとケロッとして、親に向かって悪態をついてしまうのだったが――。
忍耐強い家風と厚い信仰。そして父親ジミーの厳しいしつけ。実生活におけるクリスは、自分を上手にコントロールすることを大いに学んでいった。
次は、テニスコート上で“辛抱強さ”をどう身につけるかということだ。先に、ジミーはクリスに技術的なアドバイスはしてないと述べた。しかし、戦術面においては話は別である。ジミーはクリスを100%洗脳しようと試みているのである。
結果的に、ジミーの言うことは正しかった。クリスがあれほどの成績を残せたのも、ジミーの言葉を忠実に実行したからである。
ジミーは少女だったクリスに、三つの鉄則を口がすっぱくなるほど言い続けた。
一つ目は、ポイントを取るためにハードヒットしようとしてはいけないということだ。むしろ、ひたすらボールを打ち返していれば、結果的にそれがポイントにつながると教えた。能力的にみて、ネットプレーヤーになることがむずかしいと考えたジミーは、クリスが持つ自制心をより生かそうとしたのである。
二つ目は、70%から80%の確率でファーストサービスを成功させるということだ。
「ファーストサービスが入ればプレッシャーから解放されて、伸び伸びプレーができる。自信も持てる。だが、ファーストサービスが入らないと、力みが出て、他のショットにも影響するものだ」
ジミーはよくそう言った。ファーストサービスをゲーム運びの根幹に置いたのだ。これは何も速いサービスを入れろということではない。それは速いサービスにこしたことはないが、むしろ確実に入れることを優先させるべきだと教えたのである。
三つ目は、フットワークを中心とした練習を数多くすべきだということだ。すぐれたプレーヤーは全てすばらしいフットワークを身につけているというのがジミーの持論だった。それには練習しかない。クリスは徹底的に走らされた。ボールに素早く反応し、素早く動くことに関して、クリスは当時女子ナンバーワンだった。それはジュニアの頃、ジミーによって来る日も来る日も走らされた賜物である。
以上、三つの鉄則をまとめると、ファーストサービスを確実に入れ、素早い動きで相手のどんなボールも拾いまくり、相手をジワジワ追いつめながらミスを誘う、ということになる。
精神力が強靭でなければできないテニスである。しかし、クリスはそれを可能にした。”辛抱強い”性格をテニスのプレーに生かすことに成功したのである。もちろん、エバート家の伝統と父親ジミーの教えが後押ししてくれたことは言うまでもない。ありがたいのは血のつながりというものである。
文●立原修造
※スマッシュ1987年1月号から抜粋・再編集
【PHOTO】ボルグ、コナーズ、エドバーグetc…伝説の王者たちの希少な分解写真/Vol.1