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【レジェンドの素顔6】エバート家の歴史が支えた”辛抱強い”スタイル。父親が授けた3つの鉄則をクリスは勝利に結びつけた|後編<SMASH>

立原修造

2021.04.07

クリスは実生活で自分をコントロールすることを学び、辛抱強さを身につけた。写真:THE DIGEST写真部

クリスは実生活で自分をコントロールすることを学び、辛抱強さを身につけた。写真:THE DIGEST写真部

父親がクリスに与えた三鉄則

 信仰はクリスの精神面にもかなりのプラスとなった。彼女がジュニア・プレーヤーのとき、試合中に何度も祈りをささげたことがあった。相手にリードされ、そのまま負けてしまいそうな不安にかられたときだ。

「神様、どうか勝たせてください。もし願いを聞いてくださったら、2度と両親にさからったりしませんから――」。神に祈ると、不思議と気持ちが落ちついて、逆転勝ちすることも何度かあった。もっとも翌日になるとケロッとして、親に向かって悪態をついてしまうのだったが――。

 忍耐強い家風と厚い信仰。そして父親ジミーの厳しいしつけ。実生活におけるクリスは、自分を上手にコントロールすることを大いに学んでいった。

 次は、テニスコート上で“辛抱強さ”をどう身につけるかということだ。先に、ジミーはクリスに技術的なアドバイスはしてないと述べた。しかし、戦術面においては話は別である。ジミーはクリスを100%洗脳しようと試みているのである。

 結果的に、ジミーの言うことは正しかった。クリスがあれほどの成績を残せたのも、ジミーの言葉を忠実に実行したからである。

 ジミーは少女だったクリスに、三つの鉄則を口がすっぱくなるほど言い続けた。

 一つ目は、ポイントを取るためにハードヒットしようとしてはいけないということだ。むしろ、ひたすらボールを打ち返していれば、結果的にそれがポイントにつながると教えた。能力的にみて、ネットプレーヤーになることがむずかしいと考えたジミーは、クリスが持つ自制心をより生かそうとしたのである。
 
 二つ目は、70%から80%の確率でファーストサービスを成功させるということだ。

「ファーストサービスが入ればプレッシャーから解放されて、伸び伸びプレーができる。自信も持てる。だが、ファーストサービスが入らないと、力みが出て、他のショットにも影響するものだ」

 ジミーはよくそう言った。ファーストサービスをゲーム運びの根幹に置いたのだ。これは何も速いサービスを入れろということではない。それは速いサービスにこしたことはないが、むしろ確実に入れることを優先させるべきだと教えたのである。

 三つ目は、フットワークを中心とした練習を数多くすべきだということだ。すぐれたプレーヤーは全てすばらしいフットワークを身につけているというのがジミーの持論だった。それには練習しかない。クリスは徹底的に走らされた。ボールに素早く反応し、素早く動くことに関して、クリスは当時女子ナンバーワンだった。それはジュニアの頃、ジミーによって来る日も来る日も走らされた賜物である。

 以上、三つの鉄則をまとめると、ファーストサービスを確実に入れ、素早い動きで相手のどんなボールも拾いまくり、相手をジワジワ追いつめながらミスを誘う、ということになる。

 精神力が強靭でなければできないテニスである。しかし、クリスはそれを可能にした。”辛抱強い”性格をテニスのプレーに生かすことに成功したのである。もちろん、エバート家の伝統と父親ジミーの教えが後押ししてくれたことは言うまでもない。ありがたいのは血のつながりというものである。

文●立原修造
※スマッシュ1987年1月号から抜粋・再編集

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