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国内テニス

かつて自分が目指したあの場所を目に焼き付けて…26歳の沼尻啓介がコーチ専念を決意した理由<SMASH>

内田暁

2021.12.01

イベントや臨時レッスンなどにも積極的に参加する沼尻。そこでテニスの楽しさを再認識し、コーチとしてのやりがいも育まれていった。写真:THE DIGEST写真部

イベントや臨時レッスンなどにも積極的に参加する沼尻。そこでテニスの楽しさを再認識し、コーチとしてのやりがいも育まれていった。写真:THE DIGEST写真部

「俺と一緒にヨーロッパ回らん?」

 西岡良仁からそんなLINEが届いたのは、指導者専念を決めて間もない、今年4月のことである。

 実は沼尻は、選手を続けるべきか悩んでいた1~2年前、西岡に「一度、どこかツアーに連れていってもらえないか」と頼んだことがあった。

「プレーヤーを辞めるなら、自分が目指していた世界を見たい。そこを見たら、やりたくなるのかもしれないし、諦めがつくのかもしれない。いずれにしても、見た方が良いと思ったんです」

 実際にはコロナ禍もあり、その願いは実現しなかった。ただその時の沼尻の想いを受け止めていた西岡は、コーチとしての帯同を提案してくれたのだという。

 その後、両者のスケジュールをすり合わせ、ようやく巡ってきた機会が、10月のインディアンウェルズ。“第5のグランドスラム”と称される一大イベントを皮切りに、パリマスターズを終着点とする約1か月間の遠征だった。

 かつて、心を決めるためにも見たいと切望し、西岡の戦いを介しコートサイドから見たテニス界の頂点の景色は、彼の目にどう映っただろうか――?

 その問いに沼尻は、「大会の規模が大きくすごいと思った反面、移動の大変さなどは、僕らがフューチャーズでやっていたことと大きくは変わらない」ことだと即答する。
 
 同時に痛感したのは、西岡が時折口にする、「生きるか死ぬかのスリルを感じられる勝負をしたい!」の言葉の真意。

「実際に現地で試合を見てたら、本当にその通りだと思って。ちょっとスキを見せたらやられるし、少しでも甘いボールを打ったら叩かれる。生きるか死ぬかの緊張感、一球の重みがある試合だなというのを感じました」

 モニター越しでは知り得なかった、テニス会場の華やぎと、その裏の厳しい現実。トップ選手たちの打球音やスイングスピード、そして一球に懸ける執着心。

 それらはかつて「自分が目指した場所」として、目に焼き付けたかった光景。その空気を指導者として肌で知った今、彼は迷いなき声で言った。

「あの場所に、コーチとして行きたい。あそこにつながるコーチングをしたい。その対象がジュニアなのか、プロになりたての選手なのかわかりませんが、間違いなく言えるのは、あそこにつながるコーチングができるコーチになりたいということです」

取材・文●内田暁

【PHOTO】テニスの楽しさを伝えるイベントに参加する西岡良仁、沼尻啓介ら
 

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