揺れる心に、一本の軸を通し進むべき道を指したのは、二つの要因だっただろう。
ひとつは、昨年ロジャー・フェデラーから聞いた、「芝での戦いの極意」。ユニクロという共通のスポンサーを介して実現した対話の中で、国枝はフェデラーに助言を求めた。その時、“芝の帝王”は国枝に、次のような助言を送っている。
「芝では攻めることが大切だ。もちろん攻撃にはミスのリスクが伴う。ミスのことを考えると、精神的にもつらい。だが迷ってはいけない。自分が決めたことを貫くべきだ」。今回の決勝で心が折れそうになった時、このフェデラーの言葉が背を押してくれた。
もう一つ、国枝を奮い立たせたのが、ヒューエットの存在だろう。国枝が今年の全豪決勝で、「追い求めたい」と願うほどのショットを打った時の相手も、やはりヒューエットだ。この日の試合でも国枝は、バックのダウンザラインこそが、カギになると踏んでいた。ただ終盤までは、「内側に入ってしまい、相手のフォアで叩かれる」パターンが続く。だがそれでも打ち続けることで、第3セットの2-5の窮状から、狙ったところに決まるようになっていく。
「試合の終盤に1本だけ、全豪の時と似たようなショットがあって。思いだしましたね。2-5から逆転したのは、あの頃からバックのダウンザラインが入り出したので」
「いつになっても、キーショットなのかな」——そう言い彼は、遠くを見やった。
表彰式のウイナーズスピーチで、国枝は「また来年会いましょう」と言い、ファンの歓声を引き出した。果たしてこの約束が果たされるのか……それはまだ、本人にもわからないといった風情。
今はただ、この栄冠の瞬間を心行くまで味わいたい——トロフィーを天に突き上げた時の笑顔は、そう雄弁に語っていた。
現地取材・文●内田暁
【PHOTO】男子車いす史上初の生涯ゴールデンスラムの偉業達成!ウィンブルドン初優勝の国枝慎吾を特集!
ひとつは、昨年ロジャー・フェデラーから聞いた、「芝での戦いの極意」。ユニクロという共通のスポンサーを介して実現した対話の中で、国枝はフェデラーに助言を求めた。その時、“芝の帝王”は国枝に、次のような助言を送っている。
「芝では攻めることが大切だ。もちろん攻撃にはミスのリスクが伴う。ミスのことを考えると、精神的にもつらい。だが迷ってはいけない。自分が決めたことを貫くべきだ」。今回の決勝で心が折れそうになった時、このフェデラーの言葉が背を押してくれた。
もう一つ、国枝を奮い立たせたのが、ヒューエットの存在だろう。国枝が今年の全豪決勝で、「追い求めたい」と願うほどのショットを打った時の相手も、やはりヒューエットだ。この日の試合でも国枝は、バックのダウンザラインこそが、カギになると踏んでいた。ただ終盤までは、「内側に入ってしまい、相手のフォアで叩かれる」パターンが続く。だがそれでも打ち続けることで、第3セットの2-5の窮状から、狙ったところに決まるようになっていく。
「試合の終盤に1本だけ、全豪の時と似たようなショットがあって。思いだしましたね。2-5から逆転したのは、あの頃からバックのダウンザラインが入り出したので」
「いつになっても、キーショットなのかな」——そう言い彼は、遠くを見やった。
表彰式のウイナーズスピーチで、国枝は「また来年会いましょう」と言い、ファンの歓声を引き出した。果たしてこの約束が果たされるのか……それはまだ、本人にもわからないといった風情。
今はただ、この栄冠の瞬間を心行くまで味わいたい——トロフィーを天に突き上げた時の笑顔は、そう雄弁に語っていた。
現地取材・文●内田暁
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