男子テニスのATPツアーにおける2024年シーズンの最大のハイライトは？と聞かれれば、“クレーキング”の異名を持つ元世界ランキング１位のラファエル・ナダル（スペイン／39歳）の現役引退を挙げるファンは少なくないだろう。

　豪快なプレースタイルと驚異的な粘り強さ、そして勝利への強い意志で世界中のファンを魅了した彼が約24年にもわたる輝かしいキャリアの中で築き上げてきた功績は、四大大会22勝から歴代最長のトップ10在位912週、生涯ゴールデンスラム（全四大大会と五輪を制すこと）に至るまで数知れず、幾多の歴史的瞬間を創り上げてきた。

　ツアーで急成長を遂げた2005年以降、最高峰の舞台である四大大会で毎年のようにタイトルを獲得していたナダル。36歳になった22年シーズンにも年初の全豪オープンを制すと、続く全仏オープンでは最多記録を更新する14度目の優勝と大会最年長優勝を飾り、当時は男子選手で歴代最多のグランドスラムタイトル獲得者となっていた。

　しかしその後はツアーでの優勝はなく、決勝進出も１度だけ。ナダルの身体は度重なるケガに蝕まれ、もうプレーどころではない状態にも陥っていた。それでも彼が38歳を迎えた昨年までコートに立ち続けたのは、ちょうど１年前に思い出の全仏オープンと同じ会場で開かれたパリ五輪で「愛する母国スペインを代表して４度目のオリンピックに出たい」という想いからだった。
  　ナダルはパリ五輪に単複で出場し、シングルスは２回戦で長年のライバルであるノバク・ジョコビッチ（セルビア／元１位／現６位）に敗退。後輩のカルロス・アルカラス（現２位）と組んだダブルスではベスト８に進出するもアメリカのオースティン・クライチェク／ラジーブ・ラムに敗れた。目標としていた舞台での戦いを終えた直後に「引退の決意がほぼ固まった」とナダルは言う。

　今年４月にスペイン・マドリードで行なわれた「ローレウス・ワールド・スポーツ・アワード2025」で、長年にわたりスポーツ界や社会に影響を与えた人物に贈られる「スポーティング・アイコン賞（Sporting Icon Award）」を受賞したナダルは、７月30日にローレウス賞の公式インスタグラム（@laureussport）で公開されたインタビュー動画に出演。そこでは次のように語られている。

「パリ五輪の開幕前から遅かれ早かれ引退することになるのはわかっていた。事実パリ五輪は“プロアスリートとしての最後の舞台”として臨んだ大会だった。カルロス（アルカラス）とペアを組んでプレーできたのはとても感動的で、特別な時間だったし、キャリア最後のオリンピックで母国を代表できたことは、本当に誇らしかった」

　ナダルが引退を正式に発表したのは五輪閉幕から約２カ月後の10月で、翌11月にスペイン代表として出場した男子国別対抗戦「デビスカップ」をもって選手生活を終了。試合後にナダルは大勢の観客のスタンディングオベーションを受けながら最後のスピーチを行ない、プロテニス界に別れを告げた。

文●中村光佑

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