ラグビー

胸を張れ、顔を上げよ。ラグビー日本代表がW杯で蒔いた「未来への種」

吉田治良

2019.10.22

ウォーミングアップを終え、ロッカールームへと引き上げる日本の選手たち。(C)GettyImages

 いつもと変わらない風景だった。

 ウォーミングアップが終わる。キャプテンのリーチマイケルを先頭に、ベンチ入りメンバー23人が、前の選手の肩に手を乗せ、ひとつの塊となってロッカールームへと引き上げていく。「ONE TEAM」を象徴するようなジャパンの行進に、大きな拍手が降り注ぐ。勇ましい和太鼓の音とともに、ふたたび23人がピッチに姿を現わす。気負って駆け出す者はひとりもいない。君が代に、流大が感極まっている。10mラインから22mラインの間を、スタメンの15人が揃ってダッシュで往復した後、円陣が組まれる──。

 いつもと変わらない風景だった。

 だが、選手たちの心の内には、いつもとは違う風景が広がっていたのかもしれない。それは、未知の領域に初めて足を踏み入れた者だけが感じる重圧であり、もっと言えば「恐怖」だったのかもしれない。


「5週間、プレッシャーの中でラグビーを続ける難しさがあった。4連勝して、初めてベスト8に入って……特に今週はきつかった。もちろん手を抜くつもりはまったくなかったし、国民の皆さんの期待に応えたい気持ちもあった。でも、5試合連続でスタメンの選手も多くて……。身体のコンディション、メンタルのコンディションで難しい面があった」

 試合後、SOの田村優は絞り出すようにそう話した。

 
 今大会、怒涛の快進撃で世界を驚かせ続けてきたジャパンだが、日本のラグビー史上初めて立つワールドカップの準々決勝という大舞台に、おそらく彼らは心身ともにぎりぎりの状態で臨んでいたのだろう。

 しかも、行く手に立ちはだかる南アフリカは、想像をはるかに超えて強大だった。

 3分、自陣22mライン手前でのファーストスクラム。日本が強みのひとつとしていたスクラムがパワーで押し込まれる。そして、SHファフ・デクラークの球出しからブラインドサイドをWTBマカゾレ・マピンピに突かれ、いきなり左隅に飛び込まれるのだ。ロシア戦も、アイルランド戦も立ち上がりに先制トライを許したが、それはいずれもキックから。コンバージョンの失敗で2点を上積みされなかったとはいえ、力でねじ伏せられた精神的なダメージは大きかったに違いない。
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準々決勝という初の舞台に 心身ともぎりぎりの状態で