10月24日、第82回菊花賞(GⅠ、芝3000m)が阪神競馬場で行なわれ、単勝4番人気のタイトルホルダー(牡3歳/美浦・栗田徹厩舎)が3番人気のオーソクレース(牡3歳/美浦・久保田貴士厩舎)に5馬身差をつける逃げ切りで圧勝。3着には6番人気に推された牝馬のディヴァインラヴ(牝3歳/斉藤崇厩舎)が食い込んだ。
一方、1番人気のレッドジェネシス(牡3歳/栗東・友道康夫厩舎)は伸びを欠いて13着に大敗。2番人気のステラヴェローチェ(牡3歳/栗東・須貝尚介厩舎)は2着争いには加わったものの、競り負けて4着に終わった。
タイトルホルダー、圧巻の逃走劇だった。
この逃げ切りには前走、セントライト記念(GⅡ、中山・芝2200m)での13着大敗という伏線があった。
このレースでのタイトルホルダーは先行策をとって3~4番手を追走した。ところが直線で前が詰まってまったく追うことができず、ずるずると位置を下げて、いわゆる「何もできないまま」でレースを終えてしまった。鞍上の横山武史騎手が自ら「ひどい競馬だった」とコメントするほどの内容だった。
そこで横山騎手が菊花賞でとった策が「逃げ」だった。
春の弥生賞(GⅡ、中山・芝2000m)は逃げ切り勝ちを収めており、皐月賞(GⅠ、中山・芝2000m)でも2コーナーすぎに先頭を奪って2着に粘り込んだ経験を持つタイトルホルダー。「1頭になれば(先頭に立てば)リラックスできるのを知っていたので、今回は無理をしてでもハナにこだわりました」とレース後に述べたように、今回の逃げは予定どおりの策だったわけだ。
スタートから押して先頭を奪ったタイトルホルダーは、快調なペースで飛ばしていく。1000mの通過ラップは1分フラットと、3000m戦としては明らかなハイペース。筆者は、これではもたないだろうと感じていたが、ここから徐々にペースを落としたのが横山騎手のファインプレー。1400mから1600mの1ハロンは14秒3という驚くようなスローペースに落として、絶妙な間合いで愛馬に"息を入れさせて"いたのである。
そして、残り1000mになると再びスピードアップし、ハロン11秒台のラップを連発。これでは後続は手も足も出ない。直線坂下でさらにリードを広げ、熾烈な2着争いを尻目に大きくリードを広げて堂々とゴールを駆け抜けたのである。完勝としか言いようのない勝利だった。
タイトルホルダーの父ドゥラメンテは2015年に皐月賞と日本ダービーの二冠を制しながら、骨折のため菊花賞には参戦がかなわなかった。種牡馬入りして2年目の産駒であるタイトルホルダーが初のGⅠ馬となったわけだが、残念なことにドゥラメンテは今年8月に急病で死亡。自身の後継馬が残されたことがせめてもの救いになったと言えるだろう。
また手綱をとった横山武史騎手は、皐月賞をエフフォーリア(牡3歳/美浦・鹿戸雄一厩舎)で制しており、違う馬で同一年のクラシック二冠制覇を達成するという珍しいケースとなった。
度胸満点な思い切った騎乗が目を引く横山武史騎手だが、筆者のようなオールドファンはどうしても父・典弘騎手が長距離GⅠで見せた鮮やかな逃走劇を思い出さずにはいられない。
1998年、セイウンスカイの菊花賞。2004年、イングランディーレの天皇賞(春)。武史騎手がそのレースを見たのか、影響を受けたのかは定かではないが、大一番でも臆することのない強気な彼の騎乗を見るかぎり、騎手の世界にも"血"を感じざるを得ない。
一方、敗れた人気上位馬に関してだが、2着となったオーソクレース、4着のステラヴェローチェを除いては、距離適性の問題が一番の要因だと思われる。加えて、レッドジェネシスに関しては、勝負どころでの反応の鈍さから見るに、不良馬場で行なわれた前走の神戸新聞杯(GⅡ、中京・芝2200m)で2着に激走した反動が出たように感じられた。
最後に、牝馬ながら3着に食い込んだディヴァインラヴの健闘は立派というほかない。順調に成長していけば、中長距離路線のビッグレースで牡馬にひと泡吹かせるシーンが見られるかもしれない。
文●三好達彦
【関連動画】圧巻の逃げ!タイトルホルダーが完勝した菊花賞のレース映像
一方、1番人気のレッドジェネシス(牡3歳/栗東・友道康夫厩舎)は伸びを欠いて13着に大敗。2番人気のステラヴェローチェ(牡3歳/栗東・須貝尚介厩舎)は2着争いには加わったものの、競り負けて4着に終わった。
タイトルホルダー、圧巻の逃走劇だった。
この逃げ切りには前走、セントライト記念(GⅡ、中山・芝2200m)での13着大敗という伏線があった。
このレースでのタイトルホルダーは先行策をとって3~4番手を追走した。ところが直線で前が詰まってまったく追うことができず、ずるずると位置を下げて、いわゆる「何もできないまま」でレースを終えてしまった。鞍上の横山武史騎手が自ら「ひどい競馬だった」とコメントするほどの内容だった。
そこで横山騎手が菊花賞でとった策が「逃げ」だった。
春の弥生賞(GⅡ、中山・芝2000m)は逃げ切り勝ちを収めており、皐月賞(GⅠ、中山・芝2000m)でも2コーナーすぎに先頭を奪って2着に粘り込んだ経験を持つタイトルホルダー。「1頭になれば(先頭に立てば)リラックスできるのを知っていたので、今回は無理をしてでもハナにこだわりました」とレース後に述べたように、今回の逃げは予定どおりの策だったわけだ。
スタートから押して先頭を奪ったタイトルホルダーは、快調なペースで飛ばしていく。1000mの通過ラップは1分フラットと、3000m戦としては明らかなハイペース。筆者は、これではもたないだろうと感じていたが、ここから徐々にペースを落としたのが横山騎手のファインプレー。1400mから1600mの1ハロンは14秒3という驚くようなスローペースに落として、絶妙な間合いで愛馬に"息を入れさせて"いたのである。
そして、残り1000mになると再びスピードアップし、ハロン11秒台のラップを連発。これでは後続は手も足も出ない。直線坂下でさらにリードを広げ、熾烈な2着争いを尻目に大きくリードを広げて堂々とゴールを駆け抜けたのである。完勝としか言いようのない勝利だった。
タイトルホルダーの父ドゥラメンテは2015年に皐月賞と日本ダービーの二冠を制しながら、骨折のため菊花賞には参戦がかなわなかった。種牡馬入りして2年目の産駒であるタイトルホルダーが初のGⅠ馬となったわけだが、残念なことにドゥラメンテは今年8月に急病で死亡。自身の後継馬が残されたことがせめてもの救いになったと言えるだろう。
また手綱をとった横山武史騎手は、皐月賞をエフフォーリア(牡3歳/美浦・鹿戸雄一厩舎)で制しており、違う馬で同一年のクラシック二冠制覇を達成するという珍しいケースとなった。
度胸満点な思い切った騎乗が目を引く横山武史騎手だが、筆者のようなオールドファンはどうしても父・典弘騎手が長距離GⅠで見せた鮮やかな逃走劇を思い出さずにはいられない。
1998年、セイウンスカイの菊花賞。2004年、イングランディーレの天皇賞(春)。武史騎手がそのレースを見たのか、影響を受けたのかは定かではないが、大一番でも臆することのない強気な彼の騎乗を見るかぎり、騎手の世界にも"血"を感じざるを得ない。
一方、敗れた人気上位馬に関してだが、2着となったオーソクレース、4着のステラヴェローチェを除いては、距離適性の問題が一番の要因だと思われる。加えて、レッドジェネシスに関しては、勝負どころでの反応の鈍さから見るに、不良馬場で行なわれた前走の神戸新聞杯(GⅡ、中京・芝2200m)で2着に激走した反動が出たように感じられた。
最後に、牝馬ながら3着に食い込んだディヴァインラヴの健闘は立派というほかない。順調に成長していけば、中長距離路線のビッグレースで牡馬にひと泡吹かせるシーンが見られるかもしれない。
文●三好達彦
【関連動画】圧巻の逃げ!タイトルホルダーが完勝した菊花賞のレース映像