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マラソン・駅伝

まさに走る芸術!“史上最強ランナー”キプチョゲが東京で魅せた42.195キロの深み【東京マラソン】

生島淳

2022.03.09

美しいフォームで東京を駆け抜けたキプチョゲ。(C)東京マラソン財団

美しいフォームで東京を駆け抜けたキプチョゲ。(C)東京マラソン財団

 生きていると、自分が贅沢な時間を過ごしていることが分からない時がある。

 2年ぶりの開催となった東京マラソンを見て分かったのは、我々は今、史上最強のランナーと同時代を生きているということだ。

 ケニアのエリウド・キプチョゲ。2時間2分40秒で優勝したが、これでマラソンは16戦14勝になる。キプチョゲの走りを見ていると、もはやタイムや優勝回数さえ小さいものに思える。

 今回は白バイの誘導ミスがあり、10秒ほどタイムをロスしたと伝えられているが、180度の折り返しがあるコース設定では、これが限界値に近いのではないか。彼の走りは、もはや「神々しい」というべきか、「鑑賞」に値するレベルに達しているのではないか。

 つまりは、芸術の領域である。

 今回、レースが終わってから様々なメディア、沿道で応援していたファンのインスタグラムにアップされたキプチョゲの写真を見てみたが、真横から撮影されたものが一番美しい。

 すべての角度、ポジションが収まるところに収まり、一点の曇りもないのだ。頭の位置、視線、肩、肘と胸の張り。上半身と下半身を連結する腰まわりは高く保たれ、膝の角度、膝下から厚底シューズまでのラインは、肌と白いシューズのコントラストが実に美しい。

 史上最高のランニングフォームを、我々は東京で目にしたのである。
 
 これだけのランナーの勝因を考えるのも野暮だという気がするが、キプチョゲの美しい走りからは「経済性」という言葉が浮かび上がる。

 この数年、日本の強化現場でもよく耳にした言葉だ。

 最小のエネルギーによって前方への推進力を獲得するのだが、効率的な経済性を獲得するためには、適切なトレーニングが必要となる。肩甲骨まわりの動き、体幹、厚底シューズが発する主張に合わせられる下半身の動き。

 経済性に関していえば、日本人トップになった鈴木健吾の効率も素晴らしい。神奈川大学で鈴木を指導した大後栄治監督は、

「大学時代に教えたことは、本当に基礎的なことです。健吾は真面目な性格なので、地道にトレーニングを積んでくれたので、走りの効率は向上していました。実業団に入って、さらに無駄がなくなっていますね」

 25キロ過ぎから単独走になっても、2時間5分台をマークできたのは、鈴木の経済性が理想に近づいているからだろう。

 しかし、キプチョゲはさらにその上を行っている。ペースメーカーさえもキプチョゲの思惑を察してスプリットを刻んでいるように見える。

 キプチョゲが出場するレースは、もはや「キプチョゲとそれ以外の選手」の戦いにしか見えず、37歳にしてこのタイムをマークしたからには、2年後の2024年パリ五輪でも大本命に挙げられることになるだろう。
 
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