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【名馬列伝】名伯楽・角居勝彦の名を世界に轟かせたシーザリオの大偉業。天に召されてもなお、偉大な血脈は息吹を注ぐ<後編>

三好達彦

2023.09.14

シーザリオは福永騎手とのコンビで、日本馬として史上初めて米オークスを制した。写真:産経新聞社

 開業4年目に初めてGⅠ勝ち(2004年の菊花賞デルタブルース)を収め、2007年のウオッカ、19年のロジャーバローズで日本ダービーを2度制すなど、常に第一線を走り続けた角居勝彦。家業を継ぐために調教師生活に終止符を打った名トレーナーが、「一番好きな馬」と言わしめたのが名牝シーザリオである。

 福永祐一騎手との再タッグで、見事オークス(GⅠ、東京・芝2400m)を制したシーザリオ。このころ、樫の女王にとって格好のターゲットとなる米国のGⅠレースがあった。サンタアニタパーク競馬場で行なわれるアメリカンオークス(芝1マイル1/4・約2000m)である。 ※現在は12月に移設されている

 ダート競馬が主流である米国での芝路線はやや格落ち感が否めないが、それでも1着賞金が40万ドル(約4282万円)もある、れっきとしたGⅠ。2002年に創設され、04年の第3回には桜花賞馬のダンスインザムードが2着に健闘。日本馬に適性が向いていることも証明済みだった。

 競馬界に入ってから「世界に通用する厩舎」にすることを目的としていた角居にとっても、格好の目標となったアメリカンオークス。のちに『世界のスミイ』と呼ばれるほどになった名伯楽にとって、これが最初の海外挑戦であったため、ダンスインザムードで参戦した調教師の藤沢和雄などから情報を収集し、綿密なプランをくみ上げて米国へと飛んだ。
 
 米国の競馬場は芝コースが、ダートコースの内側に設けられた、かなりの小回りコースである。枠順は重要なポイントだったが、運悪く大外の13番枠に入ってしまう。福永は不安に襲われたが、それを振り払うように、まずはスタートに集中し、好位置に付けられるよう念じながらゲートに入った。

 願いの通り、好スタートを切ったシーザリオは3~4番手に付け、理想的な流れに乗った。そして、レース前に考えていた通りに福永が第3コーナーでゴーサインを出すと、馬なりで先頭に立ち、直線では独走態勢に持ち込んで2着に4馬身もの差を付けるレースレコードで完勝。これが米国における日本調教馬として初めてのGⅠ制覇であり、のちに世界的な名声を得る角居が、世界への足掛かりをつかんだ記念すべき海外勝利でもあった。
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