マラソン・駅伝

「彼は非常にクレバー」指揮官も称賛! 小山直城の冷静沈着な『戦術家』の一面。五輪代表を手繰り寄せた”ラストスパート”の真意とは?【MGC】

湯川泰佑輝(THE DIGEST編集部)

2023.10.15

帽子を取ってナンバー1をアピールし、トップでゴールした小山。パリ五輪の切符を内定した。写真:梅月智史(THE DIGEST写真部)

 10月5日、パリ五輪の切符を懸けた「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)』で、小山直城(Honda)が2時間8分57秒で初優勝を飾り、来年7月のパリ五輪出場権を内定した。

 小山はレース後、「(今日の)雨と風の気候は自分にとってプラスだった。注目されていなかったので、仕掛けやすかった点もあったと思う」と冷静に振り返りながら、冷たい雨や風が降りしきる悪コンディションも味方につけることができたと付け加えている。

 運命の一発勝負は、誰も予想しない展開で火蓋を切った。今回が130試合目のマラソン挑戦となる36歳の川内優輝(AD損保)が先頭で飛び出し、超ハイペースに持ち込む。これを東京五輪6位入賞の大迫傑(Nike)や日本記録保持者の鈴木健吾(富士通)ら後続集団がついていったが、なんと11.9キロ付近で鈴木が足を止め、そのまま無念の途中棄権となる波乱の展開に。

 そのあとも、8月の世界選手権組のひとりである其田健也(JR東日本)が離脱。日本人最高位(12位)だった山下一貴(三菱重工)もエンジンがかからず、30キロ過ぎまで川内の独走態勢が続いた。

 だが想定以上のハイペースでも、小山は冷静沈着だった。終盤まで集団の中で待機して、チャンスを窺った。「ラスト5キロまでは動かず、(残り)2キロはちょっと仕掛けたいなと思った。3キロぐらいからちょっとずつペースを上げたら、周りが鈍ってきたので残り2キロぐらいで勝てたと思った」と語り、ペースを変えずに辛抱強く走ったことが勝因につながったと分析する。

 これは指導するHonda陸上部監督の小川智氏と一緒に立てたレースプランだったようで、「彼は非常にクレバーな選手。戦略的なところでは『40キロまでは動かないように』という状況をしっかり見極めているのが、今回の走りにつながった」と指揮官は称賛。戦略的な勝利だったと強調した。
 
 勝負所をしっかり見極め、ロングスパートでライバルたちを突き放して逃げ切った先には、悲願のオリンピック出場権が待っていた。「(ラストスパートで)一番怖かったのは大迫選手」と語るほど、終盤に猛追した大迫の執念に最後は肝を冷やしたが、一発勝負の大舞台で最高の結果を手に入れた。

 パリ五輪に向けての強化プランについては「大阪か東京(マラソン)にどちらか出場して、パリにつなげたい。気温が高いと聞いているので、暑さ対策をしっかりやりたい。そして、スタミナ強化をしていきたい」と準備に余念がない。

 27歳の遅咲きランナーが、来年パリの地で世界トップの猛者たちと激突する。

取材・文●湯川泰佑輝(THE DIGEST編集部)

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