競馬

【名馬列伝】「落ちこぼれの星」「奇跡の馬」と称されたヒシミラクル。遅咲きのステイヤーが起こした“三度のミラクル”

三好達彦

2025.03.17

豊富なスタミナでGⅠ戴冠を果たしたヒシミラクル。写真:産経新聞社

 2歳の9月にデビューし、初勝利を挙げるまでに、年をまたいで翌年5月まで9か月がかかり、キャリアにして10戦も要したヒシミラクルは、"落ちこぼれの星"である。
【動画】古馬トップクラスを一蹴したヒシミラクルの激走をプレイバック

 そもそもヒシミラクルは、オーナーが決まるまでのプロセスも"落ちこぼれ"の道を歩んだ。母シュンサクヨシコ(父シェイディハイツ)は3戦0勝で競走生活を終えたが、500㎏ほどある馬体の雄大さが評価され、北海道・三石にある生まれ故郷の大塚牧場で繁殖入りした。その3番仔がのちのヒシミラクルで、父はサッカーボーイ。毛色は母の血を継いで芦毛に出た。

 牧場としてはそれなりに期待していたが、幼駒の時代は見映えがしなかったため庭先取引では買い手が付かなかった。そのあと馴致や調教を施され、2歳5月に行なわれた日高軽種馬農協が主催するHBA北海道トレーニングセールに上場。そこで「ヒシ」の冠号で知られる馬主の阿部雅一郎に650万円(税別)というリーズナブルな価格で落札された。
 
 ヒシミラクルは、それまでにヒシアケボノ、ヒシマサル(二代目)などを手掛け、「ヒシ」と繋がりが深い栗東トレーニング・センターの佐山優厩舎へ預託された。

 購買からわずか3か月の8月、ヒシミラクルは早々にデビューを迎える。小倉の芝1200mを7着。ここから彼の連敗街道が続く。小倉・芝1200m=11着、阪神・芝1200m=8着、阪神・芝1200m=9着、京都・芝2000m=5着、京都・芝1800m=2着、京都・芝1800m=3着。ここで骨膜炎による休養を挟んで3歳となり、4月の京都・芝1800m=4着、京都・芝1800m=6着。ここまでで9戦。いよいよ区切りの10戦目となる未勝利戦は中京・芝2000m。中団から徐々に位置を押し上げ、2番手で最終コーナーを回ると難なく抜け出すと2着に3馬身差を付けて快勝。念願の1勝を挙げることができた。それは、タニノギムレットが日本ダービーを制したのと同日のことだった。

 それ以降、レースぶりに安定感を増したヒシミラクルは、500万下(現1勝クラス)を2戦で突破。1000万下(現2勝クラス)も3戦でクリアして、距離適性が活きる菊花賞(GⅠ、京都・芝3000m)に望みをつないだ。
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追加登録料200万円を支払ってでも勝負にかけた菊花賞