日本馬は1987年のシリウスシンボリ以来、海外遠征から遠ざかっていた。それは欧米へ遠征しても勝負にならないという諦念の表れでもあった。そうした流れに棹さしたのは、のちに「地方であろうが、海外であろうが、取れる賞金があれば貪欲にどこへでも行く」と口にして憚らない調教師、森秀行だった。森は戸山の死後、調教師に転じて厩舎を開業。一時的に他厩舎に預けられていたフジヤマケンザンを管理することになった。
森は1994年に創設された香港カップの前身、香港国際カップ(香港G1・国際G2、芝1800m)にフジヤマケンザンをエントリー。初回は補欠として選に漏れたが、1995年には正式に招待を受け、鞍上には国内で手綱をとっていた蛯名正義を継続騎乗させた。そして勇躍、海外での初戦を迎えたフジヤマケンザンだったが、ゲートでの出遅れが響き、よく追い込んだものの、勝ち馬から0秒5差の4着に終わった。それでも陣営は落胆することはなく、逆に「上位とそれほどの差はない」と確信したという。
帰国後、1995年の中山記念(GⅡ)で重賞2勝目を挙げたフジヤマケンザンは、4月に行なわれるクイーンエリザベス2世カップ(香港G2、芝)に再挑戦。しかしここでは終始、馬群の内で揉まれてまともに追うこともできず10着に敗れた。
その後、七夕賞(GⅢ)で3つ目の重賞タイトルを手にしたフジヤマケンザンは、香港国際カップへと参戦。もはや森とオーナーである藤本龍也の執念さえ感じさせる3度目の香港遠征だった。
そして、陣営の大願はついに成就する。好スタートから4番手につけたフジヤマケンザンは直線でラストスパートに入ると、先に抜け出した米国のヴェンティクアドロフォリを着実に追い詰めてそれを交わし、3/4馬身差を付けてレコードタイムでゴール。平地競走では1959年にハクチカラがワシントン・バースデー・ハンデを制して以来、36年ぶりとなる海外重賞制覇という快挙を達成した。
ゴールした瞬間にガッツポーズをした際、興奮でステッキを投げ落としてしまった蛯名はレース後、「日本の馬がここまで来たんだというのが分かってもらえたのではないか」と語って胸を張った。
このあと1996年の金鯱賞(GⅡ)を制したフジヤマケンザンは、宝塚記念(GⅠ)の5着を最後に引退。種牡馬入りしたが、残念ながら目立った産駒は残せなかった。種牡馬活動から退いても熱心なファンのサポートによって幸せな余生を過ごし、2016年の4月に28歳でこの世を去った。小さいかもしれないが、深く確かな蹄跡を残して――。
文●三好達彦
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森は1994年に創設された香港カップの前身、香港国際カップ(香港G1・国際G2、芝1800m)にフジヤマケンザンをエントリー。初回は補欠として選に漏れたが、1995年には正式に招待を受け、鞍上には国内で手綱をとっていた蛯名正義を継続騎乗させた。そして勇躍、海外での初戦を迎えたフジヤマケンザンだったが、ゲートでの出遅れが響き、よく追い込んだものの、勝ち馬から0秒5差の4着に終わった。それでも陣営は落胆することはなく、逆に「上位とそれほどの差はない」と確信したという。
帰国後、1995年の中山記念(GⅡ)で重賞2勝目を挙げたフジヤマケンザンは、4月に行なわれるクイーンエリザベス2世カップ(香港G2、芝)に再挑戦。しかしここでは終始、馬群の内で揉まれてまともに追うこともできず10着に敗れた。
その後、七夕賞(GⅢ)で3つ目の重賞タイトルを手にしたフジヤマケンザンは、香港国際カップへと参戦。もはや森とオーナーである藤本龍也の執念さえ感じさせる3度目の香港遠征だった。
そして、陣営の大願はついに成就する。好スタートから4番手につけたフジヤマケンザンは直線でラストスパートに入ると、先に抜け出した米国のヴェンティクアドロフォリを着実に追い詰めてそれを交わし、3/4馬身差を付けてレコードタイムでゴール。平地競走では1959年にハクチカラがワシントン・バースデー・ハンデを制して以来、36年ぶりとなる海外重賞制覇という快挙を達成した。
ゴールした瞬間にガッツポーズをした際、興奮でステッキを投げ落としてしまった蛯名はレース後、「日本の馬がここまで来たんだというのが分かってもらえたのではないか」と語って胸を張った。
このあと1996年の金鯱賞(GⅡ)を制したフジヤマケンザンは、宝塚記念(GⅠ)の5着を最後に引退。種牡馬入りしたが、残念ながら目立った産駒は残せなかった。種牡馬活動から退いても熱心なファンのサポートによって幸せな余生を過ごし、2016年の4月に28歳でこの世を去った。小さいかもしれないが、深く確かな蹄跡を残して――。
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