500cc、350ccクラスで合計15回の世界チャンピオンに輝き、史上最多となる通算122勝を挙げたジャコモ・アゴスチーニ御大は、ロッシが現在置かれた状況について説明する。

「他の多くのアスリートたちと同じように、人生における時間の経過に対して私たちができることは何もない。ヴァレンティーノの年齢で現役を続けているのは、ごく少数のボクサーだけでしょう。しかし、それも老人同士がショーとして戦うだけで、モータースポーツの世界では通用しません」
  　そして、イタリア人らしい表現でこうも付け加えた。

「年数を重ねて良くなるのはワインだけです。でもそのワインでさえ、時には酢に変わることもある。私たちはよく話しますが、真実を知っているのはヴァレンティーノだけです。私は3位か4位争いしかできないと気付いた時、辞めることを決意しました。最近、マルク・マルケスも勝てないと感じたら引退するとコメントしていましたが、私も同じように考えていました。私は奇跡をほとんど信じない」

　渦中のロッシはガールフレンドのフランチェスカ・ソフィア・ノヴェッロ嬢とイタリアのサン・ロレンツォでバカンスを楽しんでいる模様だが、その胸に去来するのは、果たしてどんな想いなのだろうか……。

文●甘利隆
著者プロフィール／東京造形大学デザイン科卒業。都内デザイン事務所、『サイクルサウンズ』編集部、広告代理店等を経てフリーランス。Twitter：ama_super