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フィギュア

羽生結弦が“4回転アクセル”を貫いた理由ーー「生き様」を演じた王者は充実の表情「これ以上ないぐらい頑張った」【北京五輪】

辛仁夏

2022.02.16

 こう振り返り、開き直って挑んだフリーだったが、勝負に勝つことにどこまで徹しきれただろうか。武器としてプログラムに組み込んだ4回転アクセルだが、この前人未踏の超大技は平昌五輪後からこの北京五輪までに1度も成功させていないジャンプで、認定されるかどうかの着氷までしか習得できていなかったことは明らかだった。それでも、羽生自身は五輪で勝つことを目指しながらも、特別な舞台で競技人生最大の目標に掲げた4回転アクセルを跳ぶことを最優先にした。

 それも、フリー前日の練習で4回転アクセルを跳んで片足着氷から転倒して右足首を捻挫していたという。フリー演技から4日後の14日夜に行なわれた“一夜明け”会見を単独で開いた羽生が舞台裏を明らかにして、驚きの告白を語った。

「前日の練習で足を痛めて、4回転半で思いっきり自分の中でも一番に締めて、片足で降りに行ってその時に捻挫しました。その捻挫の程度も思ったよりもひどくて、本来だったら、普通の試合だったら完全に棄権していただろうなって思いますし、いまもちょっと安静にしていないと本当はいけない期間で、ドクターのほうからは『もう10日間は絶対に安静にしてね』と言われているんですけど、あの、それぐらい悪くて、フリー当日の朝の公式練習はあまりにも痛かったので、どうしようかなと思ったんですけど、6分間練習の10分くらい前に注射を打ってもらって出場することを決めました」
 
 偉業達成のほうが重要なら、ハイリターンの大技でも不安要素のある成功率の低いハイリスクのジャンプは、通常なら回避するのが勝負の鉄則だろう。しかし、「アクセルは王様のジャンプ」と言われて育ってきた羽生にとっては、幼少期から夢に描いていた4回転アクセルを跳ぶことが孤高の王者の矜持でもあったことは間違いない。そして、そのチャンスを最高の舞台で掴める最後のタイミングだったはずだ。

「ありがとうございました。まっ、正直、なんですかね。全部出し切ったというのが正直な気持ちです。明らかに前の大会(全日本選手権)よりも、いい(4回転)アクセル跳んでましたし、うん…。なんか、もうちょっとだなと思う気持ちももちろんあるんですけど、でも、あれが僕のすべてかなって。それと、あと、もちろんミスをしないということは大切だと思いますし、そうしないと勝てないというのは分かるんですけど、なんか、あの前半2つのミスがあってこそのこの『天と地と』という物語が、ある意味、できあがっていたのかなという気もします」

「もう、一生懸命頑張りました。正直、これ以上ないぐらい頑張ったと思います。(声が震えて)報われない努力だったかもしれないですけど、でも…。確かにショートからうまくいかないこともいっぱいありましたけど、むしろうまくいかなかったことしかないですけど、今回。一生懸命頑張りました!」

 フリー後の羽生に悲壮感はなく、やり切った達成感と少しの悔しさをにじませたさばさばした表情を見せながら、思い入れのある演技を振り返っていた。
 
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