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柴田政人の執念が乗り移ったウイニングチケットの戴冠。悲願のダービー騎手の称号を祝する「大マサト・コール」【日本ダービー列伝/後編】

三好達彦

2023.05.26

 5月30日、運命の日本ダービー。皐月賞での敗戦にもかかわらず、1番人気にはウイニングチケットが推された。ビワハヤヒデ、ナリタタイシンがそれに続いたが、3頭の単勝オッズは3.6倍、3.9倍、4.0倍という僅差で、ファンからほぼ互角の評価を受けていることが分かる。

 ゲートが開くや1頭が落馬するアクシデントはあったが、「三強」は無難なスタートを切った。ビワハヤヒデは先団の7番手に付け、ウイニングチケットは中団の後ろ目となる12番手を追走。ナリタタイシンは皐月賞と同様に最後方から進んだ。

 逃げたアンバーライオンが後続を引き離すように飛ばすなか、動きが出たのは3コーナー過ぎ。ビワハヤヒデが前との差を詰めるところへ、ウイニングチケットがインを通って位置を押し上げる。そして、前が開いた瞬間を逃さずに柴田が一回ムチを入れてゴーサインを出すと、ウイニングチケットがその檄に応えてスパート。残り400m付近で先頭に立つが、その内からビワハヤヒデがじりじりと伸びる。

 柴田が鬼神の表情で激しく手綱をしごけば、岡部幸雄は持てる技を出し切って追いすがる。2頭の、そして同期の二人による死力を尽くしての追い比べは、柴田の執念が乗り移ったウイニングチケットがビワハヤヒデをねじ伏せるような形で決着。半馬身差で第60代ダービー馬にはウイニングチケットが輝いた。そして上位の2頭とはやや離されたが、後方からしぶとく脚を伸ばしたナリタタイシンが3着まで押し上げていた。

 スタンドを埋め尽くした17万人近くの観客からの大きな「マサト」コールを受けながらウイニングランに入った人馬は、誇らしげにスタッフの下へと帰ってきた。デビューから24年目。19回目の騎乗でついに栄冠を手にした柴田はインタビューの壇上に立ち、「誰にこの勝利を伝えたいですか」という問いに、馬事公苑時代からの憧れである欧州へたびたび遠征していた彼らしく、優しい笑顔をたたえてこう答えた。

「世界中のホースマンに『第60回日本ダービーを勝った柴田政人です』と伝えたいです」
 
 秋、三冠目の菊花賞はビワハヤヒデが圧勝。「三強」がひとつずつの冠を分け合って、1993年の牡馬クラシックは幕を閉じた。3頭は長命を授かり、ビワハヤヒデとナリタタイシンは30歳(2020年)まで生き、ウイニングチケットは今年2月、33年の天寿をまっとうした。

 それから30年。90回目の日本ダービーのゲートがもうすぐ開く。今年はどんなドラマが待っているのだろうか。胸は高まるばかりだ。

文●三好達彦

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