イクイノックスの走破タイムは2分21秒8という史上2番目の速さを計時。良馬場ながら時計がかかっていたこの日の東京競馬場だが、上がり3ハロンは33秒5をマーク。出走18頭の中で最速タイムを叩き出すのだから、後続に付け入る隙はまったくなかった。
平均的なレベルのジャパンカップなら、リバティアイランドが史上3頭目の3歳牝馬の勝ち馬になっても何ら不思議ではないレースだった。ただ今年は、その前に稀代のスーパーホースがいたことだけが敗因と言っても過言ではないだろう。
イクイノックスはJRA史上初となるGⅠ6連勝を達成。同時に総獲得賞金は22億1544万6100円となり、アーモンドアイ(同19億1526万3900円)を抜いて歴代トップに浮上した。ちなみに3位は、18億7684万3000円を稼いだイクイノックスの父キタサンブラックである。ただ賞金王になっただけではなく、アーモンドアイが15戦で打ち立てた記録をわずか10戦で抜いたことも驚異的である。
鞍上のルメール騎手は「この馬の走りは信じられません。ペースが速かったのに、直線に入ってすぐ反応してくれて、加速の凄さにびっくりしました。(その凄さを表す)言葉がないです」と話し、全幅の信頼を寄せる相棒をあらためて称賛した。観客の前で行なわれたインタビューでは、イクイノックスと自身4度目のジャパンカップ制覇を飾ったことに感極まって落涙するシーンもあった。
また、イクイノックスを出迎えるなかで何度かハンカチで目頭を押さえる場面があった木村調教師は、ゴールしたときの感想を訊かれると、こう語った。
「いろいろな感情が入り混じっていましたが、『解放されたな』というのが正直な気持ちかなと思います。重圧は1戦ごとに強くなっていましたが、今回は『ここまで来るか』というぐらいのプレッシャーを感じていました」
これを聞いて筆者が思い出したのは、ワールド・ベースボール・クラシックで侍ジャパンを14年ぶりの世界一に導いた指揮官、栗山英樹氏がインタビューで発した言葉だ。同氏は日本ハムの監督を務めていたとき、高校卒業後メジャー挑戦を希望していた大谷翔平(現ロサンゼルス・エンジェルス)を口説き落として、日本ハムへと入団に導き、5年間をともに過ごした。そのときの心境を、栗山氏はこう表現した。
「大谷翔平という『宝物』を預かっているわけですから、とにかく彼を壊すことが怖かった」
世界ランク(ロンジン・ワールドベストレースホースランキング)首位のスーパーホースを管理する木村調教師も、「勝たなければならない」と同時に「故障させてはならない」という難しいタスクを課されるなかで背負わされたプレッシャーの大きさ、そして重さは我々の想像を超えるものがあったはず。決して馬体が強いとは言えなかったイクイノックスを、辛抱に辛抱を重ねながら歴史的名馬に育て上げた陣営の労を心より労い、感謝したい。
イクイノックスが歴史的名馬に育った要因のひとつには、これまで「日本競馬の悲願」との題目で俎上に乗せられてきた『凱旋門賞』という、日本馬にとって特殊な環境のもとで行なわれるレース名を挙げなかったことにもあるのではないか。
もちろん、ドバイシーマクラシック(GⅠ)で愛ダービー馬を子ども扱いし、海外にその名を轟かせたがゆえ、以降は大きなリスクを負う必要が無くなったのも確かだろう。それも承知で、筆者は陣営の英才教育とも言うべきレース選択の確かさを感じている。
本稿を書いている段階では、これからの予定は「状態を見ながら」とされている。だが日本にとどまらず、もはや世界の『宝物』となったイクイノックスには新たなページをめくるべき時が来たのではないか、とも思っている。今後もスーパーホースの動向には、目が離せない。
取材・文●三好達彦
【動画】破竹のGⅠ6連勝!”現役最強馬”イクイノックスのJCをプレイバック
平均的なレベルのジャパンカップなら、リバティアイランドが史上3頭目の3歳牝馬の勝ち馬になっても何ら不思議ではないレースだった。ただ今年は、その前に稀代のスーパーホースがいたことだけが敗因と言っても過言ではないだろう。
イクイノックスはJRA史上初となるGⅠ6連勝を達成。同時に総獲得賞金は22億1544万6100円となり、アーモンドアイ(同19億1526万3900円)を抜いて歴代トップに浮上した。ちなみに3位は、18億7684万3000円を稼いだイクイノックスの父キタサンブラックである。ただ賞金王になっただけではなく、アーモンドアイが15戦で打ち立てた記録をわずか10戦で抜いたことも驚異的である。
鞍上のルメール騎手は「この馬の走りは信じられません。ペースが速かったのに、直線に入ってすぐ反応してくれて、加速の凄さにびっくりしました。(その凄さを表す)言葉がないです」と話し、全幅の信頼を寄せる相棒をあらためて称賛した。観客の前で行なわれたインタビューでは、イクイノックスと自身4度目のジャパンカップ制覇を飾ったことに感極まって落涙するシーンもあった。
また、イクイノックスを出迎えるなかで何度かハンカチで目頭を押さえる場面があった木村調教師は、ゴールしたときの感想を訊かれると、こう語った。
「いろいろな感情が入り混じっていましたが、『解放されたな』というのが正直な気持ちかなと思います。重圧は1戦ごとに強くなっていましたが、今回は『ここまで来るか』というぐらいのプレッシャーを感じていました」
これを聞いて筆者が思い出したのは、ワールド・ベースボール・クラシックで侍ジャパンを14年ぶりの世界一に導いた指揮官、栗山英樹氏がインタビューで発した言葉だ。同氏は日本ハムの監督を務めていたとき、高校卒業後メジャー挑戦を希望していた大谷翔平(現ロサンゼルス・エンジェルス)を口説き落として、日本ハムへと入団に導き、5年間をともに過ごした。そのときの心境を、栗山氏はこう表現した。
「大谷翔平という『宝物』を預かっているわけですから、とにかく彼を壊すことが怖かった」
世界ランク(ロンジン・ワールドベストレースホースランキング)首位のスーパーホースを管理する木村調教師も、「勝たなければならない」と同時に「故障させてはならない」という難しいタスクを課されるなかで背負わされたプレッシャーの大きさ、そして重さは我々の想像を超えるものがあったはず。決して馬体が強いとは言えなかったイクイノックスを、辛抱に辛抱を重ねながら歴史的名馬に育て上げた陣営の労を心より労い、感謝したい。
イクイノックスが歴史的名馬に育った要因のひとつには、これまで「日本競馬の悲願」との題目で俎上に乗せられてきた『凱旋門賞』という、日本馬にとって特殊な環境のもとで行なわれるレース名を挙げなかったことにもあるのではないか。
もちろん、ドバイシーマクラシック(GⅠ)で愛ダービー馬を子ども扱いし、海外にその名を轟かせたがゆえ、以降は大きなリスクを負う必要が無くなったのも確かだろう。それも承知で、筆者は陣営の英才教育とも言うべきレース選択の確かさを感じている。
本稿を書いている段階では、これからの予定は「状態を見ながら」とされている。だが日本にとどまらず、もはや世界の『宝物』となったイクイノックスには新たなページをめくるべき時が来たのではないか、とも思っている。今後もスーパーホースの動向には、目が離せない。
取材・文●三好達彦
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