プロ野球

目指すは「10割・200本塁打・1000打点」。鈴木誠也をさらなる高みへと突き動かす“飢餓感”

前原淳

2020.02.29

侍ジャパンの4番となった今でも、鈴木の向上心はとどまるところを知らない。写真:滝川敏之(THE DIGEST写真部)

 今年の広島キャンプでよく耳にした表現方法がある。「打球音が違う」。オープン戦3試合を含め、2月の対外試合7試合で5勝1敗。56得点と打ちまくった広島打線の中でも、主砲の鈴木誠也は段違いな打撃を見せつけていた。

 キャンプ初日から打撃投手相手に28スウィングで10本の柵越えを放った。全体の打撃メニューには入らず、ランチ特打。試運転段階からバックスクリーン直撃弾に、推定飛距離140メートルの特大弾まで飛び出した。

 多くの主力が抜けた昨年、チームは4位と大きく転落した。低調だった打線の中で1年通して安定した成績を残し、自身初のタイトルとなる首位打者と最高出塁を獲得した。オフには侍ジャパンの4番としてプレミア12での世界一に貢献。MVPを受賞する活躍を見せた。

 東京五輪を控える今年は広島だけでなく、日本中が注目する打者の一人といえるだろう。

 ただ、本人は日本を代表する打者という自覚を持ちながらも、周囲の評価や称賛には戸惑いも感じているように映る。
 
 キャンプ初日から柵越えを放り込む打撃だけでない。実戦が始まれば簡単に安打性を放ち、アーチも描く。自然と番記者らは背番号1を追うが、本人の反応はいつも淡々としている。打球を右ふくらはぎ付近に当てた影響で2試合続けて欠場予定だった16日の中日との練習試合に出場志願した試合後もそうだった。大事に至らなかったものの、首脳陣は大事を取ってこの日も休ませるつもりだったが「そんな立場ではない。まだ25歳ですよ。特別扱いしてほしくない」と苦笑いしていた。

 この思考、精神力こそ鈴木誠の強さだ。

 鈴木誠は野球界の中で頂点に近づいている感覚がないだろう。周囲はすでに頂点近くまで登っている感覚にあるが、本人が登っている山と周囲が見ている山は違う。かといって騒がれ始めている米球界を頂点に思っているというわけでもなさそうだ。目指す理想は鈴木誠の中にだけあり、誰も計り知れない高い山だと想像はつく。

 今年2月に米国で大谷翔平(エンジェルス)が、同じ打ち方で打ち続けることはできないと言っていたと報じられた理論は鈴木誠の姿と重なる。