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【プエルトリコ野球“復権”の理由:後編】“新時代の育成法”で好選手を輩出

中島大輔

2020.07.30

プエルトリコのアカデミーでは学業にも力を入れながら将来のスター育成に力を注いでいる。(写真)龍フェルケル

 数多くの名選手を輩出しながら、一時は危機に瀕していたプエルトリコ野球。しかし、2013年、17年のWBCで2回連続準優勝を果たすなど、近年は再び勢いを取り戻している。そこには一体どんな要因があるのか?中南米野球取材をライフワークとする気鋭のライターが"復権"の理由を探る。

■大きな意味を持ったコレアの全体1位指名

 メジャーリーグのオフシーズン中、毎年11月から翌年1月にかけての期間を中南米の野球ファンは待ち望んでいる。ドミニカ共和国やベネズエラなど各国でウインターリーグが開催され、母国で雄姿を見せるべく多くのメジャーリーガーが参戦するからだ。

 だが、アメリカ自治領プエルトリコでは事情は異なる。2019年12月に当地を訪れると、どの球場でも閑古鳥が鳴いていた。メジャーリーガーの参戦は数えるほどで、プレーするのはフリー・エージェントとなって翌年の契約先を探す者など無名の選手ばかりだ。照明設備のない地方球団アテニエンセス・デ・マナティの球場では、週末のデーゲームでも観客1000人を切ることが珍しくない。入場料はわずか6ドルなのにもかかわらず、だ。

「今は利益を上げるために経営しているわけではない。あと数シーズンはそうなるだろう。今は投資の時期だ」
 
 そう語ったのは、19年にマナティのオーナーに就任したハビエル・ヘルナンデスだ。食品や飲料水を扱うマイクロバイオロジーの会社で財を成したヘルナンデスは51歳になった昨年、故郷にチームを復活させるべく20万ドル以上を投資し、マナティは9年ぶりに国内リーグ参戦を果たした。

 近年、プエルトリコのウインターリーグが観客動員に苦しんでいるのは、この島を次々と襲う厄災と無関係ではない。17年9月のハリケーン・マリアでは4600人とも言われる死者を出し、経済損失は900億ドルと見られる。今年1月には震度5.9の地震が勃発し、推定被害額は1億1000万ドル。さらに10年以上前から経済が悪化し、プエルトリコ政府は15年から複数回に渡って財政破綻を宣言した。17年時点の関係債務額はアメリカの自治体では史上最大の730億ドルに上っている。こうした影響により、島民の半分以上が貧困ラインでの暮らしを強いられているのだ。

 カルロス・コレア(アストロズ)も、少年時代は苦しい暮らしを経験した一人だ。プロになってアメリカン・ドリームをつかむまでの努力について、プエルトリコ・ベースボール・アカデミー&ハイスクールで指導したオマール・ロサドが述懐する。
 
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