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MLB

「生き残るためにはルール違反も辞さない」殿堂入り投手も紡いだメジャーリーグの不正の歴史<SLUGGER>

出野哲也

2021.06.13

ペリーは歴史上で最も有名なスピットボーラーの一人。自伝のタイトルは『私とスピットボール』で、引退後は不正投球に用いたワセリンの会社で財を成すなど、不正をしていたことをまったく隠さなかった。(C)Getty Images

ペリーは歴史上で最も有名なスピットボーラーの一人。自伝のタイトルは『私とスピットボール』で、引退後は不正投球に用いたワセリンの会社で財を成すなど、不正をしていたことをまったく隠さなかった。(C)Getty Images

 多くのメジャー・リーグの投手たちが、粘着性の物質をボールに塗りつけてより回転数を高め、成績向上に結びつけている。ゲリット・コール(ニューヨーク・ヤンキース)やトレバー・バウアー(ロサンゼルス・ドジャース)らトップクラスの投手も例外ではなく、一大スキャンダルになっている。

 MLB機構も規制に乗り出す決定したこうした行為は、フェアプレーの観点からは褒められたものではない、というのは論を待たない。しかし、近年ではアストロズのサイン盗み騒動もあったように、その創成期からMLBでは常に不正行為が存在した。「ズルをしないのは勝とうとしていない証拠」という格言すらあるくらいなのだ。

 投手がボールに細工を加え、変化を与える不正投球は、昔から厳密にはルール違反であったものの、ほぼ合法と言っていいほど見過ごされてきた。最も一般的なのは唾をつけるスピットボール(スピッター)。20世紀初頭は多くの名投手が使っていたポピュラーな球で、彼らは唾が湧きやすいようニレの木の枝を口に含ませていた。
 
 他に異物を付着させる球としては、マッドボール(土)やグリースボール(潤滑油)がある。ボールに傷をつける系統では、シャインボール(ユニフォームなどで擦って表面を摩耗させる)、そしてエメリーボール。1910年にヤンキースの投手だったラス・フォードが編み出したこのボールは、サンドペーパーで傷をつけるもので、あまりにも効果絶大だったことから、他の不正投球に先駆けて15年に禁止された。

 20年にこうした投球はすべて違反となったが、それまでに使用していた者に限り使用が特別に許可され、17名の投手がスピットボールを投げ続けた。だが、彼らの引退後も隠れて投げる者は後を絶たず、ヤンキースで通算236勝を挙げたホワイティ・フォードや、ドジャースなどで通算324勝のドン・サットンら殿堂入り投手がのちに使用を告白したり、疑惑の目を向けられたりした。

 特に有名なのは60年代から70年代後半にかけて活躍したゲイロード・ペリーで、長年スピッターを使っていることを公言しつつも、最晩年の82年まで一度も現場を押さえられたことがない。通算314勝を挙げ、史上初めて両リーグでサイ・ヤング賞にも輝き、91年には殿堂入りもしている。

 日本的な感覚では、このような投手に最高の栄誉が与えられるのは理解しがたいが、同じく殿堂入り投手のボブ・ギブソンも「ルールがあろうとなかろうと、生き残るために投手はスピッターを投げるだろう」と言っているのは、弱肉強食のメジャーリーグならではだろう。

 比較的近いところでは、14年にヤンキースのマイケル・ピネイダ(現ツインズ)が、松ヤニの不正使用で10日間の出場停止になっている。今、MLBで問題になっているものも、松ヤニに日焼け止めなどを混ぜ合わせたものだ。

 そもそも今回の騒動には、MLBの公式球が非常に滑りやすい代物だという根本的な原因もあり、ニューヨーク・メッツの主砲ピート・アロンソも、しっかりコントロールされた球を投げてくれないと打者が危険だという理由で「どんな滑り止めを使ったっていい」と述べている。
 
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