"連投"や"投球数"に対して非常にデリケートになってきた最近の野球界で、駒澤大学の福山優希投手(3年)は、異質の存在感を示し始めている。
この春のリーグ戦全12試合に登板し、そのうち11試合で先発。9月に開幕した秋季リーグでも、開幕から5試合連続で先発。今年のチームの公式戦に、全試合登板を続けている。
前編に引き続き、"投げ続ける鉄人"福山の野球観と、それを支える人たちの目指すものについてレポートする。
―――◇―――◇―――
前編でも触れたが、甲子園出場組とはいえ、大学入学時点ではまだ無名に近かった福山が、一躍その名を知られるようになったのが、1年生の春(2019年)の入れ替え戦だ。
1勝1敗からの第3戦。勝てば残留、負けたら降格となる勝負の一戦に、駒大の大倉孝一監督は、前日の第2戦で7回2/3、130球を投げていた福山にふたたび先発のマウンドを託す。指揮官の期待に応えるように"ルーキー"右腕は1失点、133球で完投。チームも1部残留を決めた。
「良いピッチャーになると思います。でも、1年生でこんな使い方をしていたら壊れますよ。そういうピッチャーを何人も見てきているから」
試合後、敗れた専修大の斎藤正直監督が思わず漏らした言葉は、決して負け惜しみではなかったはずだ。
スポーツ紙や専門誌の記事によると、第3戦の前夜、大倉監督の「行けるか?」の問い掛けに、福山が「行けます」と答え、先発が決まったという。
昔なら美談とか武勇伝になっていた。しかし昨今は、こうした話題が出ると、「監督と選手の主従関係の中で無理矢理投げさせられた」という解釈になる。そして、「時代遅れだ」とSNSが荒れる。
もう少し俯瞰して見てみることは出来ないものだろうか。まず確認しておきたいのは、この連投が、いわゆる「根性論」ではなかったことだ。
大きな大会の決勝戦や、絶対に負けられない入れ替え戦のような大事な試合において、コンディション的に苦しい状況にある投手を、あえて連投のマウンドに送り出すことはよくある。そのとき、「限界を超えたところで、もう一つ上の力を引き出す」というような、いわゆる「火事場の馬鹿力」的なことを指導者が口にすることは多い。
しかし大倉は、「そういうのは、ナンセンスだと思っています」と否定する。
「限界を越えるもなにも、そもそも限界って何? 球数のこと? 何球なら限界なの? 数値化できないし、因果関係が見つからないよね。よく、『攻めていけ』とか言うでしょう。どうやったら攻めているの? その具体的な方法を指示するのが我々の仕事じゃないんですか。だから目の前の試合、目の前の1球をどうするのか。それしかないんです。それをやり続けて、彼らは成長していく」
大倉は、選手に対して「チームのために」という自己犠牲は要求するが、いわゆる「根性論」を拠り所にした選手起用はしない。それは別物だと考えているからだ。
その思考は福山にも浸透している。
「僕も"身体を張る"とか、そういう考えではやっていません。『投げろ』と言われた試合に対して、やるべき準備をちゃんとやるだけ。それを1試合1試合、先を見ることもなければ、終わった試合のことも、もちろん反省はしますが、いつまでも後退することはない。その繰り返しです」
まず2戦目が終わった時点で、相手チームのデータを洗い直したところ、戦前に出ていた「左打者に対して、内角低めのカットボールが有効である」という分析が生きていた。それを有効に使って好投したのが、福山だった。
「どんな結果が出ても、やり遂げろ」というチームの意思統一がなされていた。それが出来る投手は誰か? 2戦目の投球内容だけでなく、「上がったり下がったり、弱気になったり入れ込みすぎたりという感情の揺れが、基本的にない子」(大倉)という性格面の特徴からも、「福山が一番勝てる確率が高い」という裏付けがあった。
この春のリーグ戦全12試合に登板し、そのうち11試合で先発。9月に開幕した秋季リーグでも、開幕から5試合連続で先発。今年のチームの公式戦に、全試合登板を続けている。
前編に引き続き、"投げ続ける鉄人"福山の野球観と、それを支える人たちの目指すものについてレポートする。
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前編でも触れたが、甲子園出場組とはいえ、大学入学時点ではまだ無名に近かった福山が、一躍その名を知られるようになったのが、1年生の春(2019年)の入れ替え戦だ。
1勝1敗からの第3戦。勝てば残留、負けたら降格となる勝負の一戦に、駒大の大倉孝一監督は、前日の第2戦で7回2/3、130球を投げていた福山にふたたび先発のマウンドを託す。指揮官の期待に応えるように"ルーキー"右腕は1失点、133球で完投。チームも1部残留を決めた。
「良いピッチャーになると思います。でも、1年生でこんな使い方をしていたら壊れますよ。そういうピッチャーを何人も見てきているから」
試合後、敗れた専修大の斎藤正直監督が思わず漏らした言葉は、決して負け惜しみではなかったはずだ。
スポーツ紙や専門誌の記事によると、第3戦の前夜、大倉監督の「行けるか?」の問い掛けに、福山が「行けます」と答え、先発が決まったという。
昔なら美談とか武勇伝になっていた。しかし昨今は、こうした話題が出ると、「監督と選手の主従関係の中で無理矢理投げさせられた」という解釈になる。そして、「時代遅れだ」とSNSが荒れる。
もう少し俯瞰して見てみることは出来ないものだろうか。まず確認しておきたいのは、この連投が、いわゆる「根性論」ではなかったことだ。
大きな大会の決勝戦や、絶対に負けられない入れ替え戦のような大事な試合において、コンディション的に苦しい状況にある投手を、あえて連投のマウンドに送り出すことはよくある。そのとき、「限界を超えたところで、もう一つ上の力を引き出す」というような、いわゆる「火事場の馬鹿力」的なことを指導者が口にすることは多い。
しかし大倉は、「そういうのは、ナンセンスだと思っています」と否定する。
「限界を越えるもなにも、そもそも限界って何? 球数のこと? 何球なら限界なの? 数値化できないし、因果関係が見つからないよね。よく、『攻めていけ』とか言うでしょう。どうやったら攻めているの? その具体的な方法を指示するのが我々の仕事じゃないんですか。だから目の前の試合、目の前の1球をどうするのか。それしかないんです。それをやり続けて、彼らは成長していく」
大倉は、選手に対して「チームのために」という自己犠牲は要求するが、いわゆる「根性論」を拠り所にした選手起用はしない。それは別物だと考えているからだ。
その思考は福山にも浸透している。
「僕も"身体を張る"とか、そういう考えではやっていません。『投げろ』と言われた試合に対して、やるべき準備をちゃんとやるだけ。それを1試合1試合、先を見ることもなければ、終わった試合のことも、もちろん反省はしますが、いつまでも後退することはない。その繰り返しです」
まず2戦目が終わった時点で、相手チームのデータを洗い直したところ、戦前に出ていた「左打者に対して、内角低めのカットボールが有効である」という分析が生きていた。それを有効に使って好投したのが、福山だった。
「どんな結果が出ても、やり遂げろ」というチームの意思統一がなされていた。それが出来る投手は誰か? 2戦目の投球内容だけでなく、「上がったり下がったり、弱気になったり入れ込みすぎたりという感情の揺れが、基本的にない子」(大倉)という性格面の特徴からも、「福山が一番勝てる確率が高い」という裏付けがあった。