高校野球

「緊迫した場面での1本の長打」がテーマ。勝ち越し3ランを呼び込んだ浦和学院のフルスイング

氏原英明

2022.03.29

8回に勝ち越し3ランを放った鍋倉。値千金の一打でチームを7年ぶりのベスト4進出を決めた。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)

 接戦を分けるのはミスか長打だ。ミスはある程度防げる部分はあるが、長打を狙って打つのは容易ではない。だからこそ、大抵の場合まずはミスなく戦おうとする。だが、今春のセンバツでベスト4に進出した浦和学院は、そんな展開でこそ「長打を狙う」チームだった。

「チームのテーマとして、緊迫した場面で1本の長打だよと。そういうのをテーマにしてずっとやってきたものがあったので、その成果が出てよかったです」とは森大監督だ。

 顕著だったのは、準々決勝の九州国際大付戦だ。昨秋の神宮大会にも出場していた強豪との対戦は、浦和学院にとっては試金石とも言えるものだった。関東大会ではベスト4で敗れ、観戦に回った同大会を見ながら「ここに出ているチームに勝つんだ」と冬を乗り越えてきた。

 試合は幸先良く浦和学院が1回裏に適時打で1点を先制。これで主導権を握ったかに見えたが、その後は追加点を奪えないまま徐々に試合のペースは九州国際大付の方へ。4回表に適時打を浴びて同点とされ、一気に流れが傾きかけていた。
 しかし、そんななかでこそ、力が試される側面もあった。緊迫した場面でどうこの状況を打開するかは、冬場から取り組んできた「どんな状況であっても振り切る」という姿勢だった。

 ゴロを転がせばエラーでの出塁もあり得る。だが、昨秋からチームに就任した森監督はそういう野球を標榜してこなかった。

「去年の夏、うちは日大山形さんに負けたのですが、日大山形さんの打線と去年の夏の大会を優勝した智弁和歌山の2チームを見ていると、振り切って打っていたんです。それが、打球が野手の間を抜けていったり、長打になったりと結果につながっていた。見本を見せてもらったので、うちのチームもまずは振りきることから始めようと。失敗してもいいから、凡打でもいいからとにかく恐れずに振り切れと。そこを冬場に取り組みました」

 その成果が最初に出たのが6回裏だった。

 1死から2番の伊丹一博が左翼スタンドに放り込んで勝ち越しに成功。昨秋の県大会は4番も打っていた男の一発に打線は勢いづき、さらに金田優太、鍋倉和弘の連打でさらに1点を追加した。

 8回表に反撃を浴びて同点に追いつかれるも、その裏にはふたたび伊丹から打線が爆発した。1死から四球で出塁すると、続く金田がレフト前ヒットでチャンス拡大。さらに4番の鍋倉が豪快に振り抜き、勝ち越し3ランを右翼スタンドに叩き込んだのだった。
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「結果的にマン振りしたみたいになった」鍋倉の一発