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「たかが一本なんで」――“いつもと違う開幕戦”で本塁打を放った鈴木誠也が踏み出したカムバックへの道<SLUGGER>

ナガオ勝司

2023.04.17

WBCに出場できず、悔し涙を流した鈴木だったが、復帰初戦で見事な一発を放った。(C)Getty Images

「いろいろありましたけど、やっとここまでこれたなという感じがします。怪我っていうのは想定してなかったですし。WBCの辞退にも悔しい思いはありますけど、しっかりやれることをやっていれば、いつかこういう日が来ると信じていた」

 その一言に、今の彼の思いがすべて、詰まっているような気がした。

 4月14日(現地)、シカゴ・カブスの鈴木誠也が左脇腹痛による10日間の負傷者リスト(IL)から復帰した。その夜、彼は8回に迎えた第4打席に、ドジャースのアンドレ・ジャクソン投手の高めの速球を叩いて、ドジャー・スタジアムの左翼席中段へ運んだ。テレビ中継のアナウンサーが「Welcome back, Seiya!」と叫んだ一打は、豪快そのものだった。

 とても"分かりやすい"ストーリーだ。怪我に苦しみ、悔しい思いをしていた選手が、カムバックした試合でホームランを放つ。しかし、そんな風に野球の神様が作ってくれた粋な計らいを、束の間の慢心やちょっとした油断、そして、ベースボールという名のゲームへのリスペクトを忘れない28歳は慎ましく辞退する。

「嬉しいのは嬉しいんですけど、その前の打席だったりがあまり良くなかった。一本出たのは良かったけど、反省するところはたくさんある。しっかり修正して、また明日に向けてやっていきたい。たかが1本なんで、今日、とりあえずスタートしたというのは良かったけれど、しっかりやらないといけないなと思う」
 クスリとも笑わず、淡々と話す姿に「彼らしいな」と思った。ホームランの感想は「良かったです」、感触については「覚えてないです」と言ったことも、気持ちを引き締めて明日について語るのもまた、「鈴木誠也」という人なのだと思う。

 そんな彼の素顔が見られたのは「僅差の試合で終盤で追加点を挙げ、ベンチが盛り上がる中に自分もいた。『この場所こそ、自分がいる場所だ』と思ったんじゃないですか?」と多少、大げさに質問した時だったかも知れない。

「そんなことはないですけど」と鼻で笑いながら、彼はこう続けた。

「皆、勝つために必死になって、一試合、一試合やってると思うんで、去年はやっぱりチーム状況はあまり良くなかったし、チーム的にも暗かったんですけど、今年はすごく明るくて、すごく良い雰囲気で試合に臨めていると思うんで、そういった意味で僕もすごく楽しくやれているのかなと思います」

――マイナーリーグの試合やキャンプとは景色が違う。

「あー、そうですね、ちょっと最初はふわふわしている感じがあって、まぁ、緊張とかはしてなかったんですけれど、ちょっと浮ついてると言うか、いつもと違う感じはあったんで、積極的に、攻撃的に行こうかなと思ってたんで、そういった意味では良かったですね」
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