破天荒ながらも、確かな眼力で選手の潜在能力を見抜くプロ野球スカウト、郷原眼力（オーラ）を主人公にした人気マンガ『ドラフトキング』（グランドジャンプ連載）。選手ではなく“裏方”のスカウトを主人公に据えるという斬新さと、抜群のリアリティで名作野球マンガに名を連ねる本作には、果たしてどのような思いが込められているのか？　作者のクロマツテツロウ先生に語ってもらった。

「先が見えなくなって不安になることもある」もがき苦しみながら、鈴木誠也は１ミリでも前に進もうとしている＜SLUGGER＞

――野球マンガといえば高校野球を舞台にした作品が現代の主流な中、『ドラフトキング』でプロ野球チームのスカウトを主人公にした理由は何ですか？

クロマツテツロウ　基本は編集部が高校野球マンガしか企画を通してくれないんです。大学野球や社会人野球もすごい面白いんだけども、そういうマンガはないじゃないですか、やっぱり売れないから。でも、いろいろなプロ野球選手のなり方があって、そのプロセスはめちゃくちゃ面白いはずです。その全部の野球ジャンルをやるならスカウトだな、と提案させてもらったんです。

――最新の章『ドロップアウトした天才』では、一般にあまりなじみのないクラブチームまでも取り上げておられますよね。

クロマツ　僕も知らなかったんですけど、いろんな情報をキャッチしていくと、何かクラブチームがすごいぞ、と思ったんです。 そこまでのレベルの選手はそこまでたくさんはいないんですけど、（プロ野球選手になるのも）あり得るという可能性はすごい感じた。なので「やっちゃおう」ってなりました。
  ――野球の幅広い世界を取り上げているのが『ドラフトキング』の魅力ですが、先ほどのお話にもあった通り、高校野球漫画以外はあまり売れない風潮があります。これは担当編集の方に伺いたいのですが、編集部の立場として、一般的にあまり知られていない社会人野球などを取り上げることに、不安を感じたことはありませんか？

担当編集・古屋裕司さん　不安はそれほど感じたことはないですね。先生と一緒に取材も行かせていただいて、本当にいろいろなお話を聞くことができたので。やっぱり世の中にある「大人のエピソード」はすごく面白くて、そうしたものを基にした『ドラフトキング』は、野球が好きな人でなくとも楽しめる作品になっていると思います。じわじわと読者の方も増えてきているので、面白い大人の漫画が作れていると思います。

――実際にプロ野球のスカウトの方にも取材されたそうですが、主人公の郷原眼力にモデルはいますか？

クロマツ　モデルはいないですね。モデルになった人を傷つけてしまう可能性もあるので。それに郷原は担当エリアがなく、日本中どこへでも行く設定になっていますが、普通は担当エリアがだいたい決まっています。漫画的な設定ありきで作ったもので、そういう意味でもモデルはいないですね。