「99マイルのボールがしっかり握れないからすっぽ抜けるなんて、俺はごめんだね」と彼は言う。アロンゾはまた、MLB機構は毎年、その年FAイヤーを迎える選手に合わせてボールに細工をしているという説を披露した̶̶投手の年俸を抑えたい時は飛びやすく、打者の年俸を抑えたい時は飛びにくくするというのだ。
この説の信ぴょう性は怪しいものだが、選手とコミッショナー事務局の間に広がる不信感を物語っている。マンフレッドは粘着物質を必要とする投手たちの懸念に耳を傾けるべきだったし、合法的な他の選択肢について選手会と折衝すべきだった。それに、あらかじめ粘着性のあるボールを導入するという選択肢もあった
しかし選手会は、MLBがアリゾナ秋季リーグでそうしたボールを試験的に使った際には承認しなかった。また、選手会とMLB機構の不和を考えれば、代用のボール導入に両者が合意することは疑わしい。もちろん、投手たちも3月のマンフレッドの警告を真剣に受け止め、ボールをしっかり握るための別の方法を模索するべきだった。しかし彼らは、実際に罰則強化が導入されるまで不正行為を続けた。
今回の問題はさまざまな面でステロイド時代と似ている。ただ、ステロイドの使用には長期的な健康リスクが伴うという明らかな危険があったことは違う。04年まで、MLBではステロイド検査は行われていなかった。つまり、選手たちは罰則を受けるリスクもなく、自由にステロイドを使うことができた。多くのケースで、ステロイドを使った選手たちは好成績を残して高年俸を獲得し、使わなかった選手たちは取り残された。
同じように、技巧よりパワーを優先するアナリストの影響で三振率が上昇すると、投手たちはそれを維持するために何が何でもスピンレートを上げようとした。彼らは、ステロイド時代と同じように、MLBが規制を強化しないだろうと考えていたのだ。
球界はステロイド時代の教訓を心に刻んでおくべきだった。つまり、放っておけば選手は不正行為に手を染めるということだ。三振の急激な増加傾向や、スピンレートの不自然な上昇を真剣に受け止め、もっと早く手を打つべきだった。