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高校野球

滋賀の名将が育てた無名校、甲子園への軌跡。彦根総合快進撃の舞台裏と監督が見据える名門への道<SLUGGER>

馬場遼

2023.01.27

 宮崎監督をサポートするコーチ陣も手厚い。04年夏に北大津高が初めて甲子園に出場した時のエースである上田修司や、10年に夏の甲子園で16強入りした時の主力選手である北野力といった、かつての教え子が指導に携わっている。傍から見れば、宮崎監督の手腕でチームを強化した印象を抱くかもしれないが、「色んな人の手がかかっているチームなんです」と本人が言うように、多くの人々の協力によって現在の恵まれた環境が作られているのだ。

 環境作りは順調に進んだが、甲子園への道のりは決して簡単ではなかった。1年生主体で戦った21年は上級生との力量差が否めず、春、夏、秋ともに初戦敗退。昨春は初の4強入りを果たしたが、「まだ安定して力を出せるだけのチーム力はなかった」と宮崎監督が語った通り、シード校として臨んだ夏はまさかの初戦敗退に終わった。

 だが、これが良い薬になった。「あれが初めて本気で悔しいと思った負けだったと思う。悔しさを忘れない者が次の栄光を掴むんですよ」と宮崎監督。1年生の頃は心のどこかに負けても仕方がないという思いがあっただろうが、結果を残してからの初戦敗退は、流石に堪えたようだ。

 この悔しさをバネに努力を続けた選手は、実力や経験値ともに他校を上回り、ついに滋賀県の頂点に立った。近畿大会でも堂々たる戦いを繰り広げたことで、センバツの出場権がぐっと近づいた。

 現在のチームで、宮崎監督が最も自信を持つのが投手力だ。エース左腕の野下陽祐はキレのあるスライダーが武器で、奪三振能力が高い。さらに最速143キロの勝田新一朗と最速142キロの武元駿希の両右腕が控え、分厚い投手層を形成している。
 
「三羽ガラスじゃなくて、三羽カイツブリです」と滋賀県の県鳥に例えてユーモアたっぷりに話してくれた宮崎監督。現在は3人が横一線でエースナンバーを争っている。かつて01年夏の甲子園で、3投手の継投で甲子園準優勝した近江高のように、令和版”三本の矢”として甲子園を席巻しそうだ。

 さらに、宮崎監督が力を入れているのは野球だけではない。野球部員が所属するスポーツエキスパート系列は2年生になると、「専攻スポーツ」の授業として週4回は午後から練習することができる。ここまではスポーツ強豪校にありがちなスケジュールだが、特徴が出るのはここからだ。

 午後6時頃に練習を終えると、その後、食堂で夕食をとり、午後8時頃から校内塾で国語、数学、英語の学習を習熟度別に行っている。スポーツに特化したコースの生徒が練習後に勉学に励むというのは珍しい試みだろう。これは宮崎監督の提案で始められたものだ。

「勉強に限らず私生活が乱れていると、それがプレーにも出る。それに野球だけ上手くても後の人生が長いですからね」。理想とする姿は早稲田や慶應のように文武両道を実践する名門だ。

 実際に「名門」と呼ばれるようになるのはかなり先のことになるだろうが、宮崎監督はそれを本気で実現させようとしている、甲子園初出場はその第一歩に過ぎない。滋賀県勢初の甲子園優勝、そして誰もが認める「名門」を目指す戦いがいよいよ始まる。

取材・文●馬場遼

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