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プロ野球

「真っすぐを打て」――智将・岡田監督が阪神ナインに授けた言葉の裏にあった山本攻略の布石<SLUGGER>

氏原英明

2023.10.29

 先頭の佐藤輝明が中前安打で出塁。すると、6番・ノイジーの初球に盗塁を成功させたのだ。

 初回に盗塁失敗、4回には強攻策の流れから、相手バッテリーの警戒が緩んだところを佐藤が見逃さなかった。続く6番のノイジーがライトへの犠牲フライを放って佐藤が三進すると、7番の渡邉諒が中前適時打を放って先制をしたのである。

 たったの1点だがこれが大きなダメージだったと、オリックスのマスクをかぶっていた若月健矢はこう振り返っている。

「佐藤選手は7盗塁していますし、ノーマークにしたらくるかなと思いましたけど、あそこはまさかでしたね。(打者には)いいアプローチをされていました。ランナーが進んでいくいやらしさ、ただじゃ終わらない怖さがありました。5回の1点目は会心のヒット0で取られましたから」

 山本-若月バッテリーはここから不安定になる。続く木浪聖也を迎えた場面では走者を意識して2ボールと先行。木浪は3球目の真っ直ぐを一、二塁間に弾き返したのだった。

 9番・坂本誠志郎の犠打は失敗に終わるものの、1番の近本は1ー1からの真っ直ぐを一閃。センターの頭を越えるタイムリー二塁打となった。続く中野も適時打を放ち、計4点を奪う見事な攻撃だった。
 
 阪神先発・村上頌樹が好調だったから、この4点は効いた。

 続く6回にも阪神打線は山本をつかまえた。3安打を浴びせ、3点を奪ってKOしたのである。

 ストレートが来そうなカウントはしっかり狙う。そのためには布石が必要で、序盤からの足攻めがボディブローのように効き、相手エースを追い詰めた。

 ただ狙い球を絞るのではなく、カウントや走者の状況、それらを駆使して果たした見事な攻撃だった。

「佐藤は走塁の思い切りがいい。初球から行きよったなと思ったよ。その前に中野が盗塁を失敗しているから、もう走ってこないと思うやろ。バッティングの指示はまっすぐを打ってフォークを見送れだけや。野球はシンプルにまっすぐ打つことやんか。それを打てるようにみんな練習してきているんやから、フォークを対策したからって打たれへんって。近本、中野がそれぞれ3安打。あいつらが打ったら足はあるし、警戒するし、得点になるよな」

 百戦錬磨の智将は饒舌にそう話した。

 シンプルにまっすぐを打つ。その言葉の裏にある好投手攻略の青写真が見事にハマった試合だった。

文●氏原英明

【著者プロフィール】うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『SLUGGER』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設。このほど、パ・リーグ特化のWEBマガジン「PLジャーナル限界突パ」を創刊した。

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