――斎藤さんは松井秀喜さんとも対戦経験がありますが、大谷選手の打法は松井さんともやはり違うのでしょうか?
松井秀喜というバッターは、むしろ打席では非常に静かでした。振らないと思ったらいきなりバットが出てくるような、バットがいつ出てくるのか分からないタイプ。彼はいわゆる日本人の好打者で、相手に失投させることもできるし、ピッチャーが良いボール投げても仕留めることができるという類の打者でしたね。落合博満さんにもそういう雰囲気がありましたが、その一方で大谷選手の場合は、ちょっと雑に見えるぐらいにガンガン振ってくる。その点が大きく違いますね
――斎藤さんが投手として打者・大谷と対戦するなら、どのように攻めますか?
その質問は、いつも聞かれるんですけど……(笑)。僕は幸いリリーバーなので、本来は「今日の大谷選手はどんな調子かな」というのを見てから考えたい、というのが本音です(笑)。その日その日の相手の調子で攻め方は変わりますから。
そういった前提を抜きにして言えば、ストライクゾーンには一球も投げたくないですね。ストライクゾーンの外なら、「ここに投げておけば空振りになる」というゾーンがいくつかあるので、そこで勝負します。それでも振ってくれないのなら、もう仕方がない。大谷選手の場合、「ヒットにはなるけどホームランにはならないゾーン」は、もはやほぼなくなりつつあります。打球が上がってしまえばホームランという感じなので、できることなら勝負したくないですね。
自分にシンカーみたいな球があれば、ホームランを打たれずに済むのかなと思いますが、5月14日のレッドソックス戦で打ったグリーンモンスター越えの一発を見てしまうと、調子が良かったら持っていかれてしまいそうですよね。左投手のスライダーくらいしか、安全な球はないんじゃないですか?
――実際に大谷選手は「左投手の、特にスライダーが苦手」というデータがあります。やはりそういったデータを駆使して抑えていくしかない、ということですか?
やはりそうです。僕の現役時代には、例えばジャイアンツと対戦するときには、ボンズはどこにファールゾーンがあって、どこに空振りゾーンがあって、どこがゴロになって、どこがフライになるか……いうのを全部チェックするわけです。その上でボンズの映像をずっと見続けて、自分の頭の中に焼き付けながらデータをインプットしていく。
まず最初に警戒するのは長打です。ホームランゾーンだけは赤く塗り潰して、危険だから絶対に投げない。でも、大谷選手の場合、ストライクゾーンの7割から8割がその危険なゾーンになりつつありますね。
ただ、大谷選手の場合、空振りゾーンもまだ多いです。データへのアプローチとしては、危険ゾーンを見たらその次は空振りゾーンをチェックするんです。当てさせたくないという状況の時にどこに投げるかというのも、やはり重要になりますからね。かといって大谷選手は、ある程度のスピードとキレがないと振ってこないです。選球眼が悪いわけでもないので、決して容易な相手ではないですね。
今のメジャーは、僕がやっていた頃以上にデータ分析が緻密になっているはずです。そういう警戒をかいくぐって結果を出している。同地区のチームはデータの蓄積も相当だと思いますが、むしろ先ほど言ったような駆け引きも相まって、やればやるほど大谷選手の有利になっているように見えます。もはや「レベルが違う」としか言いようがないですね。
――日本人初の本塁打王獲得も期待される大谷選手ですが、タイトル獲得のために超えなければいけない壁は何でしょうか?
やっぱりインコースの対応じゃないですかね。結果的に身体にぶつかるほどのボールは来ないまでも、足元や手元で動かすボールは、これからも絶対に相手が投げてくると思います。左投手に外のスライダーなどを投げられると、手も足も出ずに三振ということになっちゃうので。やはりボール球はボール球として見逃した方がいいと思います。特に低めの見極めができるようになれば、本当に手をつけられないバッターになりますよ。
構成●SLUGGER編集部
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松井秀喜というバッターは、むしろ打席では非常に静かでした。振らないと思ったらいきなりバットが出てくるような、バットがいつ出てくるのか分からないタイプ。彼はいわゆる日本人の好打者で、相手に失投させることもできるし、ピッチャーが良いボール投げても仕留めることができるという類の打者でしたね。落合博満さんにもそういう雰囲気がありましたが、その一方で大谷選手の場合は、ちょっと雑に見えるぐらいにガンガン振ってくる。その点が大きく違いますね
――斎藤さんが投手として打者・大谷と対戦するなら、どのように攻めますか?
その質問は、いつも聞かれるんですけど……(笑)。僕は幸いリリーバーなので、本来は「今日の大谷選手はどんな調子かな」というのを見てから考えたい、というのが本音です(笑)。その日その日の相手の調子で攻め方は変わりますから。
そういった前提を抜きにして言えば、ストライクゾーンには一球も投げたくないですね。ストライクゾーンの外なら、「ここに投げておけば空振りになる」というゾーンがいくつかあるので、そこで勝負します。それでも振ってくれないのなら、もう仕方がない。大谷選手の場合、「ヒットにはなるけどホームランにはならないゾーン」は、もはやほぼなくなりつつあります。打球が上がってしまえばホームランという感じなので、できることなら勝負したくないですね。
自分にシンカーみたいな球があれば、ホームランを打たれずに済むのかなと思いますが、5月14日のレッドソックス戦で打ったグリーンモンスター越えの一発を見てしまうと、調子が良かったら持っていかれてしまいそうですよね。左投手のスライダーくらいしか、安全な球はないんじゃないですか?
――実際に大谷選手は「左投手の、特にスライダーが苦手」というデータがあります。やはりそういったデータを駆使して抑えていくしかない、ということですか?
やはりそうです。僕の現役時代には、例えばジャイアンツと対戦するときには、ボンズはどこにファールゾーンがあって、どこに空振りゾーンがあって、どこがゴロになって、どこがフライになるか……いうのを全部チェックするわけです。その上でボンズの映像をずっと見続けて、自分の頭の中に焼き付けながらデータをインプットしていく。
まず最初に警戒するのは長打です。ホームランゾーンだけは赤く塗り潰して、危険だから絶対に投げない。でも、大谷選手の場合、ストライクゾーンの7割から8割がその危険なゾーンになりつつありますね。
ただ、大谷選手の場合、空振りゾーンもまだ多いです。データへのアプローチとしては、危険ゾーンを見たらその次は空振りゾーンをチェックするんです。当てさせたくないという状況の時にどこに投げるかというのも、やはり重要になりますからね。かといって大谷選手は、ある程度のスピードとキレがないと振ってこないです。選球眼が悪いわけでもないので、決して容易な相手ではないですね。
今のメジャーは、僕がやっていた頃以上にデータ分析が緻密になっているはずです。そういう警戒をかいくぐって結果を出している。同地区のチームはデータの蓄積も相当だと思いますが、むしろ先ほど言ったような駆け引きも相まって、やればやるほど大谷選手の有利になっているように見えます。もはや「レベルが違う」としか言いようがないですね。
――日本人初の本塁打王獲得も期待される大谷選手ですが、タイトル獲得のために超えなければいけない壁は何でしょうか?
やっぱりインコースの対応じゃないですかね。結果的に身体にぶつかるほどのボールは来ないまでも、足元や手元で動かすボールは、これからも絶対に相手が投げてくると思います。左投手に外のスライダーなどを投げられると、手も足も出ずに三振ということになっちゃうので。やはりボール球はボール球として見逃した方がいいと思います。特に低めの見極めができるようになれば、本当に手をつけられないバッターになりますよ。
構成●SLUGGER編集部
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