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MLB

もはや隠し球じゃない――ドラフト戦線に突然現れた“無名の155キロ右腕”柴田大地が辿った波瀾万丈すぎる球歴【後編】

矢崎良一

2021.10.08

トミー・ジョン手術を終え、少しずつ実践経験を増やしていった。そんな柴田は凄まじいデータを残してもいる。写真:徳原隆元

トミー・ジョン手術を終え、少しずつ実践経験を増やしていった。そんな柴田は凄まじいデータを残してもいる。写真:徳原隆元

 1年間のリハビリを経て、今年の春から少しずつ実戦のマウンドに立ち始めた柴田。拡散したYouTubeの映像の頃は、こわごわ腕を振っているようなところがあった。

 バッテリー部門を担当する鈴木健司コーチは、「まだ不安なんだと思います。投げれば、何かしら痛みがあるはずで、その痛みの原因が、張りなのか、手術の影響なのかも、本人も経験がないからわからない状態ですから」と話していた。

 藪に代わり昨年から日本通運を率いる澤村幸明監督も、春先は「まだまだ、ようやく戦力になった段階」と、あえて厳しい見方をしていた。

 社会人野球の主要大会はトーナメントの一発勝負。チームも勝負が懸かっているだけに、期待値だけで選手を起用するわけにはいかない。それでも、「本人も目標にしているようだし、チームに貢献して、そういうところ(プロ)に行けるまでになってほしい」と、期待と不安が半々の気持ちで見守っていた。

 それから約半年。10月2日の都市対抗南関東地区第一代表決定戦、JFE東日本戦。9-0とリードした9回裏、リリーフでマウンドに上がった柴田は、危なげなく三者凡退に抑え、チームの都市対抗出場を決めた。

 この大事な試合での起用は、もちろんチーム内で得た信頼に他ならない。ただ、試合展開的には、あえて投手を代える必要のない場面でもある。この交代は、澤村監督からの最大限の思いやりという捉え方もできる。チームとして、柴田をプロに送り出せる選手と認め、スタンドで見守るスカウトに対して、アピールの場を与えてくれたのではないだろうか。

 今もまだリハビリ途上でもあり、長いイニングは投げていないが、それでも投げるたびに150キロ台を連発するポテンシャルはやはりただ者ではない。

 柴田のポテンシャルを裏付けるデータがある。

 この都市対抗第一代表決定戦で、柴田の投球を独自の機材を用いて計測、分析した人物がいた。彼はプロ・アマ含めた数多くの投手のボールの質を計測し、「ドラフト候補調査隊」の名前でTwitterなどに分析結果を発表している。

 彼は、「4シーム(ストレート)は、球速だけでなくボールのノビを表す“ホップ量”というデータも重要」と指摘する。この“ホップ量”とは、おもにボールの回転数と回転軸から算出するものだという。

「柴田投手のホップ量は、今年のドラフト1位候補の廣畑敦也投手を超え、アマチュアではかなり高いレベルです。ただ、回転軸の傾きが大きいタイプなので、今の段階ではまだ、プロのトップレベルとまでは言えません。しかし、回転数はMLB平均の2300rpmに対して、平均2500rpmを超えており、なかには2800rpmに迫る驚異的な数値を記録している投球もありました。

 回転数が非常に多いという特徴があるので、回転軸をもう少し改善できれば、今年、ルーキーで活躍している伊藤大海投手(現日本ハムファイターズ)や栗林良吏投手(現広島カープ)を超えるホップ量を獲得できる可能性がある、魅力ある投手と言えます」

 つまり柴田は“隠し球”どころか、1位指名候補と同レベル、あるいは凌駕しかねないポテンシャルを持つ投手だったのだ。
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