NBA

欧州や大学を経て世界最高峰のリーグへ――苦労人ニック・ナースが優勝チームのコーチになるまで

杉浦大介

2020.10.21

ナースは就任1年目からラプターズを優勝に導き、2年目の今季は最優秀HCに選ばれた。(C)Getty Images

昨季はチームをNBAの頂点に導き、今季はリーグで最も優れたHCに選出

 8月22日、ラプターズのニック・ナースが2019-20シーズンの最優秀ヘッドコーチに選出された。前年のチャンピオンチームのコーチがこの賞を受賞するのは珍しいが、チーム状況を考えれば、ナースの選出は順当だろう。

 昨季の優勝に大きく貢献したカワイ・レナードとダニー・グリーンが昨オフに移籍し、大幅な戦力ダウンは必至と予想されたにもかかわらず、今季のラプターズは白星を重ねた。最終的に球団史上最高勝率(73.6%)をマークし、プレーオフでもカンファレンス決勝進出にあと1勝まで迫ってみせた。

 この快進撃の基盤となったのは強固な守備力だ。今季のラプターズは失点と被3ポイント成功率でリーグ1位、ディフェンシブ・レーティングと被フィールドゴール成功率でリーグ2位の数字を記録した。高いディフェンス意識をチームに植えつけたことで、レナード抜きでも快進撃が可能になり、同時にナースの指導力に改めて脚光が当たることになったのだった。

「ニックは常にリラックスしていて、それでいてハードワーカー。クリエイティブで、ダイナミックなコーチだ。王座を防衛するのではなく、次の優勝に挑むという姿勢で臨み、チームの基調を定めてくれた。だから私たちも彼のことを信じられる。ここまで長い道のりを歩んできた彼の功績が、こういう形で讃えられることを嬉しく思う」
 
 ナースの最優秀コーチ賞受賞が発表された後、ラプターズのマサイ・ウジリ球団社長は心のこもった言葉を贈った。このコメントにある通り、ナースはコーチとしていわゆるエリートコースを歩んできたわけではない。

23歳での大学HC就任を皮切りに、英国を経てNBAの指導者に辿り着く

 アイオワ州キャロル出身のナースは、大学卒業後にイギリスのダービー・ラムズで選手兼コーチを務め、1年後アメリカに戻りに23歳の若さでグランドビュー大のHCに就任。その後は、カレッジやヨーロッパなどで地道にキャリアを積み重ねていった。英国で2度の優勝を経験すると、07年、Dリーグ(現Gリーグ)のアイオワ・エナジーのHCに任命される。同職を11年まで務めたあと、11年にはリオグランデバレー・パイパーズのHCに転じた。この2チームを優勝に導いた手腕が認められ、13年7月にはドウェイン・ケイシーがHCを務めるラプターズのアシスタントコーチに就任する。そして18年6月14日、ケイシーの解任に伴い、ナースはついにラプターズの指揮官に辿り着いたのだった。

 23歳でカレッジのHCになってから、足掛け30年近く。道のりは長かったが、NBAで指導力を発揮するまでに時間はかからなかった。就任1年目にレギュラーシーズンでイースト2位の勝率を残すと、プレーオフではカンファレンス決勝でバックス、ファイナルではウォリアーズを撃破し、優勝候補の本命を破るという文句なしの形でチームを初のチャンピオンに導いた。