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NBA

スーパーソニックス移転の“悲惨さ”を伝えた熱き男たち。1万ドルを費やし世界へ訴える【NBA秘話|後編】<DUNKSHOOT>

大井成義

2021.10.05

ヒートとサンダーが激突した2012年のファイナルでマイアミに乗り込んだリード(左)とバクスター(右)。2人の“怨念”が通じたのかサンダーは敗れた。(C) Getty Images

ヒートとサンダーが激突した2012年のファイナルでマイアミに乗り込んだリード(左)とバクスター(右)。2人の“怨念”が通じたのかサンダーは敗れた。(C) Getty Images

■ソニックスファンの亡霊としてサンダーに付きまとう2人の男

 ソニックスファンに対する逆風は続き、ベネットの企みを阻止しようと訴訟に打って出た当時のシアトル市長、グレッグ・ニッケルズが予想外の無能さを露呈する。彼が法廷で踏ん張っていたら、少なくとももう1年はソニックスがシアトルに留まり、打開策を模索する時間を獲得できた可能性は高かった。

 卑怯者のコーヒー屋、ペテン師のオクラホマン、ファン度外視のコミッショナー、愚かすぎる市長。登場人物が見事に酷い連中ばかり。まともなのは、こよなく愛していたチームをある日突然失ってしまったシアトルのファンだけという、何とも虚しい構図だった。

 そのファンを象徴するユニークな2人が、今回の主人公である。1人は『SONICSGATE』の監督兼プロデューサー、ジェイソン・リード。もう1人がエグゼクティブ・プロデューサーを務めたコリン・バクスター。2人とも、自他ともに認めるウルトラダイハード・ソニックスファンである。

 なんと2人は、ソニックスのユニフォームを着用し、ゾンビ(〈魔力によって〉生き返った死体)のメイクをしてサンダーの試合を観戦。それもファイナルの大舞台で、借金をしてサンダーベンチ真後ろの、日本円にして数十万円もするチケットを買って、である。目的はただひとつ、ソニックスファンが受けた惨劇を、世界中に伝えるため。

 2012年、サンダーのファイナル進出に合わせて、2人はマイアミに飛んだ。その際、『ESPN』のインタビューに答えているのだが、これがなかなか面白い。抜粋、意訳してみよう。
 
ESPN:このアイディアはいつ思いついたの?
リード:2、3年前から。サンダーがファイナルに進んだら、何かどでかいことをやりたいって俺たちは話していた。シアトルには世界で最高のバスケットボールファンがいることを証明したかったんだ。

ESPN:そのチケットはいくらしたの?
バクスター:3500ドル……。
リード:それには手数料が含まれてないよ。全部込みで3900ドルだね。チケット転売サイトで、欲しかった席が手に入ったんだ。

ESPN:ホテル代や交通費、その他の費用を合わせたら、出費はどのぐらい?
リード:たぶん1人1万ドルぐらいじゃないかな。
バクスター:俺たちは超金持ちってわけじゃない。単にダイハード・ファンなだけさ。
リード:今回旅費を工面するため、2人とも新たにクレジットカードを作った。NBAがシアトルに戻ってくるまで、俺たちはこれで良しとするわけにはいかない。
バクスター:カネの問題じゃないんだ。情熱の問題だ。この機会を逃したらもう終わりだろう。このチームはシアトルのものであるべきなんだ。だけど、事態は少々おかしな方向に転がってしまった。チームを盗まれた時にどう対処すればいいのか、本当にわからない。ルールも何もないからね。そう、俺たちは“盗まれた”と感じている。
 
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