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NBA

【NBAスター悲話】デイビッド・トンプソン――“スカイウォーカー”と呼ばれた天才スコアラーが味わった転落のキャリア【前編】

大井成義

2019.12.02

全盛時は垂直跳びで122㎝を記録したというトンプソン。その驚異的な運動能力はバスケットボールの神が彼に与えたものだった。(C)Getty Images

全盛時は垂直跳びで122㎝を記録したというトンプソン。その驚異的な運動能力はバスケットボールの神が彼に与えたものだった。(C)Getty Images

 デイビッド・トンプソン――。今やオールドファンの間でしか語られぬ名だが、彼こそは、あのマイケル・ジョーダンが幼少期に強く憧れたヒーローだった。122㎝のジャンプ力を活かし、360度、ウインドミルなどのダンクをいとも簡単にやってのける驚異のアスリート。トンプソンは紛れもなくジョーダン以前の空中の支配者だった。しかし、“神”に成り得る稀有な才能の持ち主は、ドラッグの誘惑に負け、悲しい転落の人生を辿っていく――。

 マンハッタンの西54丁目にある伝説のクラブ“Studio 54”。派手な若者やセレブが夜ごと集い、毎晩乱痴気なパーティーが繰り広げられていた。スピーカーから流れる大音量の音楽とアルコール、そして溢れんばかりのドラッグ。1970年代から80年代はじめにかけてのニューヨークでは、特に珍しい光景ではなかった。

 暗闇の中に、1人のNBA選手の姿があった。おぼつかない足取りで歩くその若者は、大量に摂取したアルコールとコカインのせいで意識が朦朧としていた。そんな折、彼は階段の踊り場でクラブの従業員と揉め、倒されてしまう。そして――彼は階段を転げ落ちた。それは人生の転落でもあり、それまで築き上げてきたものすべてを失った瞬間でもあった。
 
    ◆    ◆    ◆

 NBAが出版している公式の百科辞典に『ザ・オフィシャルNBAエンサイクロペディア』という分厚い本があり、その現行版(第3版)の表表紙と裏表紙に、計20人の写真が掲載されている。表表紙の中央にマイケル・ジョーダン、その両隣はラリー・バードとドクターJ(ジュリアス・アービング)。裏表紙にはカリーム・アブドゥル・ジャバーにウィルト・チェンバレン、ビル・ラッセル、ジョージ・マイカン、オスカー・ロバートソン……。

 NBAの歴史を語るうえで、欠かすことのできない伝説の巨星たち。その輝きは衰えを知らず、この先も眩いばかりの光を放ち続けていくことだろう。

 しかし――。光あるところには影もある。伝説になり損ねた選手たち。類い稀なる才能を持ちながら、己を律せなかったがゆえ頂点に立つことなく消え去っていった儚き英雄。今、彼らの名がメディアに採り上げられることは滅多にない。

 そんな悲劇の象徴とも言える選手が1970年代に存在した。歴史上もっとも偉大な選手の1人になれたはずなのに、最後にはすべてを失い、長い間リーグから黙殺された男。NBAで初めてシグネチャーシューズを与えられ、360度ダンクやウインドミルダンクを最初に観客の前で披露した開拓者。ビル・ウォルトンいわく、「マイケル・ジョーダンとコビー・ブライアント、トレイシー・マッグレディ、レブロン・ジェームズを合わせて1人にしたような選手」。そして、当のジョーダンが少年時代に憧れ、ドクターJがその全盛期に唯一ライバルと認めた天才的プレーヤー。

 彼の名は“DT”、デイビッド“スカイウォーカー”トンプソン。
 

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