「私たちは幾多の試練を経験してきた。そして、彼はやり遂げたんだ。私は彼に刺激を受けたよ。彼に電話をして、私のために（壇上に）立ってほしいと頼んだ時、クッソびっくりさせたと思うけどね。（会場爆笑）」

　ジョーダンの斜め後ろで、笑いながら何度も頷くトンプソンの姿があった。
 
　トンプソンは現在65歳。故郷ノースカロライナ州シェルビーにほど近いシャーロットに住み、青少年のためのバスケットボール・クリニックを主催したり、モチベーショナル・スピーカー（聴衆をやる気にさせたり、刺激を与えることを目的としたスピーチを行なう人）として、各地を転々とする生活を送っている。服役中にキリスト教に目覚め、日増しに強くなっていく信仰心のおかげで、この32年間ドラッグはおろか一滴のアルコールも口にしていないという。

　伝説になれなかった男、デイビッド・トンプソン。彼は今、無垢な少年時代に明るい未来を夢見た場所で、人生の第二幕をゆっくりと、そして堅実に歩んでいる。

文●大井成義

※『ダンクシュート』2003年３月号掲載原稿に加筆・修正。