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NBA

4世代を超えて“宝物”となった史上最高のダンカー、ヴィンス・カーターの波乱万丈のキャリア

大井成義

2020.01.05

2014年の凱旋試合、ラプターズ時代のカーターのトリビュート映像が流され、観客全員がスタンディングオベーションで彼の功績を讃えた。(C)Getty Images

2014年の凱旋試合、ラプターズ時代のカーターのトリビュート映像が流され、観客全員がスタンディングオベーションで彼の功績を讃えた。(C)Getty Images

 それは、カーターのラプターズ時代のハイライト集と、思い出や感謝を伝えるカーターのスピーチ映像だった。最初はいつものごとくブーイングで反応する観客もいたが、すぐさま拍手と声援に変わり、途中からアリーナにいた観客全員がスタンディングオベーションでカーターの功績を盛大に讃えた。

 ベンチの前で手を上げながら胸を拳で叩き、Tシャツの裾で涙を拭うカーター。その姿がアリーナビジョンに映し出される度に、ますます大きくなる喝采の声。反対側のラプターズベンチでは、選手たちも拍手を送っている。なんとも感動的な、心温まる時間が過ぎてゆく。時がすべてを洗い流してくれたのだった。

    ◆    ◆    ◆

 2001年の冬、仕事で極寒のトロントを訪れた。仕事の内容は、カナダのトロントという街と、アメリカ以外の都市に初めて誕生したNBAチームの関係性を探るというもの。市井の人々からライターが話を聞き、僕は人物や風景、それにエアカナダ・センターでカーターのプレー写真を撮影しながら、ラプターズとNBA、そしてバスケットボールというスポーツが、北の街にどのように根付いているかを取材した。

 移民の街トロントに、ある日突然降臨した〝ハーフマン・ハーフアメイジング〞は、瞬く間に人々を虜にした。街のあちこちにカーターを起用した広告のポスターが貼られ、豪快なダンクをひと目見ようとアリーナには大勢のファンが詰めかけた。

 仕事以外に個人的興味もあったこともあり、行った先々で出会った人に「トロントニアン(トロントっ子)にとってヴィンス・カーターとは?」と質問してみた。「英雄」、「希望」、「王様」、「未来」等々、様々な答えが返ってきたなかで、特に印象深かったのが「トレジャー(宝物、大切な人)」という言葉。カーターがトロントニアンにどれだけ愛されているか、強く実感させられたのを覚えている。
 
 別れ方こそ円満な形ではなく、双方にとって辛い時期も長かった。また、キャリアを通して決して順風満帆なわけでもなかった。新人王とダンク王こそ獲得したものの、オールNBA1stチームに選ばれたこともなければ、優勝はおろかファイナルの舞台に立ったことすらない。これほどのスター選手が、キャリアの後半になってロールプレーヤーの役目を受け入れ、ジャーニーマンとして8チームを渡り歩いてまで現役に固執した例も珍しい。

 それでも、カーターが残した足跡が色褪せることは微塵もない。NBA22年目のシーズンを迎え、さらには4ディケイドの時を超え、かつてトロントのトレジャーだった男はリーグ全体のトレジャーへと昇華した。

 NBA史にその名を刻んだ稀代のダンカー、ヴィンス・カーター。その彼が、自ら宣言した現役最終シーズンに臨んでいる。これまでのNBAで誰よりも長い旅路を歩んだ男が放つ、最後の渾身の輝きを、皆さんの目にぜひ焼き付けてほしい。

PROFILE
◆本名:ヴィンセント・ラマー・カーターJr.
◆生年月日:1977年1月26日
◆身長・体重:198㎝・100㎏
◆出身地:フロリダ州デイトナビーチ
◆出身大学:ノースカロライナ大
◆背番号:#15
◆ポジション:SF
◆ドラフト:1998年1巡目5位(ウォリアーズ)
◆経歴:ラプターズ(1998~2004)→ネッツ(04~09)→マジック(09~10)→サンズ(10~11)→マブズ(11~14)→グリズリーズ(14~17)→キングス(17~18)→ホークス(18~)
◆主な賞歴:オールNBA2ndチーム(2000)、同3rdチーム(01)、新人王(1999)、スラムダンク王(00)、オールスター選出(00~07)、五輪金メダル獲得(00)

文●大井成義

※『ダンクシュート』2019年12月号掲載原稿に加筆・修正。
 
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