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NBA

スピロス・ベリニアティス――“グリーク・フリーク”を発掘した男【NBA秘話】

大井成義

2019.09.18

アデトクンボは2018-19シーズンにレギュラーシーズンMVPを受賞。才能を見抜いたとはいえ、ベリニアティスもこれほどの選手になるとは、想像していなかったに違いない(C)Getty Images

アデトクンボは2018-19シーズンにレギュラーシーズンMVPを受賞。才能を見抜いたとはいえ、ベリニアティスもこれほどの選手になるとは、想像していなかったに違いない(C)Getty Images

 そして迎えた3年目、ベリニアティスの努力がようやく日の目を見る。最初に出場した試合で50得点を叩き出すと、ヤニスのバスケットボールに対する考え方も、両親や周りの見る目も、すべてが変わっていった。“グリーク・フリーク”の卵が生まれた瞬間だった。「その後のことは皆さんご存知の通り」。そうベリニアティスは述べている。

 ストーリーのエンディング部分では、ヤニスとベリニアティスのその後についても語られている。ダーク・ノビツキーと彼を発掘したホルガー・ゲシュヴィンドナーが、師弟として生涯に渡り親密な関係性を保っているように、2人も良好な関係性を築いているのだろうか。残念ながら、答えはノーだった。ベリニアティスは次のように語っている。

「フィラシリティコス時代はとても親しく付き合っていたが、彼がNBAに行ってからは連絡が取れなくなってしまった。もちろん彼とは頻繁に話をしたいし、あらゆる方法でコンタクトを取ろうとしているけどね」。

“元教え子”の動向は、ソーシャルメディアを通してチェックしているという。ベリニアティスがバスケットボールの世界に無理やり引きずり込んでいなかったら、今シーズンのMVP最有力候補、ヤニス・アデトクンボはNBAに存在していなかったかもしれない。
 ストーリーのタイトルにあるように、ベリニアティスはアデトクンボを見出したコーチである。それなのに、一方的に距離を置かれてしまった。彼らの間に何があったのか、それは他人には知る由もないが、ベリニアティスの立場に立ってみれば寂しい限りだろう。現在のアデトクンボの活躍を、彼は果たして全力で応援できるのだろうか。記事後の注記にある“『VICE』はアデトクンボの家族と連絡を取ろうと試みたが、彼らから連絡はなかった”という一文が、より切なさを醸し出す。

 ストーリーの最後に、ベリニアティスのこんなコメントが載っている。

「私たちが初めて会った時、彼の両親とこんな口約束を交わしたんだ。もしヤニスがNBAに行ったら、最初の契約金の7%を私が受け取るってね。そして夕食に招待してほしいって頼んだよ。ナイジェリアの名物料理、ペッパースープを一緒に楽しむために。私はその両方を、今でも待っているよ」。

 ベリニアティスは現在、アテネで第二のアデトクンボを探しているという。

文●大井成義

※『ダンクシュート』2019年6月号より転載。

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