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NBA

【NBA秘話】“幻”に終わったジョーダンvsマジックの1オン1対決。歴史的ビッグイベントが中止になった理由とは…〈DUNKSHOOT〉

大井成義

2021.03.19

26歳の若きジョーダン(左)と、全盛期にあったマジック(右)の1オン1対決はファン垂涎のイベント。だが、様々な横槍が入り、残念ながら実現に至らず。(C)Getty Images

26歳の若きジョーダン(左)と、全盛期にあったマジック(右)の1オン1対決はファン垂涎のイベント。だが、様々な横槍が入り、残念ながら実現に至らず。(C)Getty Images

〈1990年 ジョーダン vs マジック〉
リーグ最高選手決定戦はアイザイアの横槍で中止に


 NBAの歴史上、最大級とも言える1オン1の対決である。当時、世界中のバスケットボールファンが最も望んだ対戦カードだろう。

 30歳になったばかりのマジックは、1979年のデビューから11年間で5回の優勝を遂げ、直前の1989-90シーズンに3回目のレギュラーシーズンMVPを獲得したばかり。実績的に、リーグのトッププレーヤーであることに疑問の余地はなかった。一方、26歳のジョーダンはプロ6年目にして4度の得点王や最優秀守備選手賞、レギュラーシーズンMVPなどを獲得し、人気、実力ともリーグの頂点にいたが、最も重要な優勝だけはまだ達成できていなかった。

 イベントの発案者はマジック。現役時代からビジネスマンとしての才覚を発揮していた彼は、思いつくやいなや実行に移し、手練れのプロモーター2人にジョーダンとの交渉やイベントの計画実行を託した。交渉の結果、ジョーダンは参加を承諾し、その他にも様々なことがトントン拍子に決まっていった。

・イベントの正式タイトル:“King of the Court (コートの王)” 
・開催場所:シーザースパレス(ネバダ州ラスベガス) 
・勝者の賞金額:100万ドル 
・試合形式:ハーフ15分、計30分

 ところが、イベントは直前になって急遽取りやめとなる。理由は3つ。

 まず、当時のNBPA(選手会)会長だったアイザイア・トーマスが開催に反対の異を唱えた。ジョーダンが1年目のオールスターで、アイザイアに“フリーズアウト”を食らって以来、ジョーダンはアイザイアを蛇蝎のごとく嫌い、2人は犬猿の仲だった。1990年のプレーオフでも激しいバトルを繰り広げたばかりであり、アイザイアが役職を利用してジョーダンの邪魔立てをしても、何ら不思議はなかった。
 
 また、NBAにはリーグのトップ選手にこのようなイベントへの参加許可を出した前例がなかった。これを認めれば、“King of the Court”シリーズが拡大し、追従する選手が続出するだけでなく、他の大掛かりなイベントにも選手たちが積極的に参加する可能性が出てくる。それにより、NBAの利益が損なわれる恐れがあった。

 そして、当時のNBAコミッショナー、デイビッド・スターンも難色を示した。リーグの選手が賭けの対象となり、ギャンブルと直接結びつくことを避けたかったからだった。

 実は、ジョーダンの心も揺れ動いていた。イベントが巨大化していくにつれ、お金の匂いに様々な人が群がりはじめ、ジョーダンまでもが単に金儲けのためにプレーすると思われても仕方がなかった。

 1989-90シーズンのジョーダンのサラリーは250万ドル、賞金の100万ドルは決して小さい金額ではない。だが、彼にとってお金はまったく問題ではなかった。ジョーダンはマジック・ジョンソンというリーグを代表するバスケットボールプレーヤーと、本気で1オン1で戦ってみたかった。当時『ESPN』のインタビューで、こんなふうに話している。

「ベストの選手と対戦するのは、昔から楽しいよ。彼にはサイズとフックショットがある。サイズのアドバンテージを生かして、俺をじりじり押し込むこともできるだろう。ただ、クイックネスと身体の強さだったら俺に分があり、武器も俺の方が多く持っている。いずれにしろ、戦略的な戦いになるだろうね。決して甘く見てはいないよ。彼は非常にインテリジェントなバスケットボールプレーヤーだから」。

 また、代理人のデイビッド・フォークには、次のようにこぼしていたという。

「もし俺が勝ったら、人々はこう言うだろう。『それで? あなたは何を期待していたんだ? あれがマイケルじゃないか。彼は1オン1のプレーヤーなんだから勝って当然だよ』。そしてもし俺が負けたら、『だから彼はマジックみたいにタイトルを獲得できないのさ』、となる。このイベントに参加することの意味は、いったい何なんだ?」。

 イベントが中止される直前に発券された、会場への入場券と賭金が記録されたレシートがネット上に残っている。それによると、ラスベガスのブッカーが設定したオッズは1対2.5で、ジョーダン有利と見ていたようだ。

文●大井成義

※『ダンクシュート』2020年11月号掲載原稿に加筆・修正。

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