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Jリーグ・国内

中大バスケ部・サッカー部はなぜ一般社団法人を立ち上げたのか?【前編】学生アスリートに「普通の環境」を

中野吉之伴

2023.08.09

 なるほど、精神的な強さが必要ないとは言えない。あれもこれもと手厚く準備された環境だと、やはり成長にブレーキはかかってしまう。自分を律し、コンフォートゾーンから飛び出して厳しい環境に身を置くことは成長に欠かせない。

 でも《厳しさとはなにか?》を正しく理解し、正しく取り組むことが前提になければならないのではないだろうか。
 

 そもそもその厳しさは成長に向かっているのだろうか。危険な環境下でプレーを強いることは成長にではなく、選手を壊す方にしか矢印が向いていないではないか。食事が貧困だと栄養失調にもつながる。そんな状態で負荷の高いトレーニングをしたら負傷や病気の要因にもなる。猛暑の日本で熱中症対策を怠り、そのことに危機感を覚えず、根性論をまかり通してしまうような風潮は間違っている。『この環境での練習に耐えられてたらどんなところ行っても絶対負けないです!』とかそんな次元の話ではない。

 渡辺「まさにその通りです。良い環境にするという以前に、普通の環境にもなってない点を自覚しなければなりません。『世界最高峰の施設を作れ!』と言ってるんじゃないんです。私たちはそうした大学スポーツの置かれた環境を《普通の環境に近づける》と同時に、将来への選択肢が多いものにするために、ということを考えなければなりません」

 渡辺教授の指摘ももっともだ。《教育的》という言葉が絶対的な力を持ちすぎていないだろうか。それさえいえば誰もが納得すると思っていないだろうか?そもそも生活衛生的に問題があり、施設状態に不備があり、負傷の原因になりうるとわかっている中で生活していたら、そこに《教育的価値》など何もないではないか。

 教育とはそれぞれが知見を深め、様々な経験を通して知恵を身に着け、自立して人間的な営みを過ごすことができるようになるためにあるべきだ。間違っても《規則や理念、伝統のために己を犠牲にする》という類のものではない。

 渡辺「いまは残念ながら、マイナスな環境がまだまだ多いんです。食事の部分もそうですし、アスリートとしてコンディションを維持できるだけのものが考慮されなければならないですし、練習環境にしても、不慮のケガが起きないように、最低限の熱さ対策とか、せめて《普通の環境》にしていかなければなりません」

 スポーツは人生を豊かにしてくれる最高のツールだ。だからこそ、スポーツとの関わり方がもっと充実して、スポーツのすばらしさを数多くの人が実感できるような取り組みが増えてきたら素敵ではないか。

 後編では中大バスケ部とサッカー部が社団法人を立ち上げたことで、具体的にどんな取り組みをして、どんな方法で、どのようなマネタイズをしているのかをお伝えする。

取材・文●中野吉之伴

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