海外テニス

【レジェンドの素顔10】ジミー・コナーズと母親の異様な親子関係がもたらした光と影│後編<SMASH>

立原修造

2021.12.28

当時では珍しい両手打ちバックハンドを貫き通し、コナーズは遂に完成させた。写真:THE DIGEST写真部

 大一番におけるスーパースターたちの大胆さや小心をのぞいていくシリーズ「レジェンドの素顔」。前回に引き続き、ジミー・コナーズを取り上げよう。

 ジミーは教育熱心な母親グロリアの支えもあり、テニスの才能を開花させ始めた。一方、グロリアの過剰なジミーへの干渉は彼の人生にどのような影響を与えたのか、詳しく見てみよう。

   ◆  ◆  ◆

一人前の男子が"母親連れ"で大会をまわるなんて―――

 グロリアの思惑が見事に的中した。セグラコーチを得て、ジミーの両手打ちバックハンドはグングン上達していく。ラケットを少しオープンに引いて、ライジングで素早く振り切るスイングはここにきて完成した。セグラの両手打ちフォアハンドとジミーの両手打ちバックハンドは全く瓜二つであるとも言われた。

 こうしてみると、グロリアは単なる盲目的な「教育ママ」でなかったことがわかる。自分の力が及ばないと見るや、さっさと信頼できる人に引き継がせてしまう。この切り替えは見事である。

 しかし、コーチ役は他に譲っても、マネジャー役には固執した。グロリアはジミーの出場する試合には必ず付き添った。ある日、コナーズ親子は、フロリダのジュニアトーナメント会場でエバート親子に偶然会った。エバート親子というのは、クリス・エバートとその父ジミーである。
 
 以前「レジェンドの素顔・エバート編」でも触れたが、エバート氏とグロリアは若い頃、シカゴの同じテニスクラブに所属していた。何度かデートを重ねるくらい親しい間柄でもあった。しかし、結婚までは発展せず、それぞれ別の相手を見つけた。この別離によって、テニス史は二人の稀有のチャンピオンを持つに至るのである。そう考えると、実にドラマティックな気分になってくる。

 さて、再会したエバート氏とグロリアは、お互いの子どもがともに有望なジュニアであることに驚く。

 このときジミー13歳、クリス10歳。

 クリスは、ジミーがなんて母親の言うことを素直に聞く子なのかしら、と感心したという。後に悪童と評され、ひんしゅくを買う原因となった粗野な言動は微塵もなかった。クリスの第一印象ひとつをとっても、少年時代のコナーズが、いかにいい子であったかがわかる。
 
NEXT
PAGE
エバートが振り返るジミーの母親に対する傾倒っぷり