海外テニス

「僕とケイの間に隠すことは何もない」新鋭コルダが先輩・錦織に勝利するまでの足跡<SMASH>

内田暁

2021.06.18

フルセットで錦織に逆転勝利したセバスチャン・コルダ。IMGアカデミーでコルダは錦織の背中を見ながら育ってきた。(C)Getty Images

 芝をえぐり鋭く跳ねるキックサービスが、2時間40分の熱戦に終止符を打った。

 ウインブルドンの前哨戦にあたる男子テニスツアー、ノベンティ・オープン(ドイツ・ハーレ)の2回戦。互いに幾度もブレークチャンスを手にしながらも、両者ともにしのぎ、並走状態でもつれ込んだ第3セットの第11ゲーム。鮮やかなロブでついにブレークしたセバスチャン・コルダは、続くゲームで2度のマッチポイントを逃すも、3度目の正直で勝利をつかむ。

「落ち着いてプレーし、ブレークポイントを幾度もしのいでチャンスを待ち、メンタルバトルに勝つことができた」

 錦織圭を破った20歳は、勝利の後も、冷静なたたずまいを崩さない。

「僕とケイの間に、隠すことは何もない。何度も練習してきたし、それこそ彼は、僕がテニスを始めた頃からずっと僕を知っているから」

 IMGアカデミーの先輩からの勝利を、コルダは感慨深げに噛みしめた。
 
 5月にツアー初優勝を果たすなど、今季大躍進を見せているコルダだが、彼はそのはるか以前からスポットライトを浴びてきた。彼の父は、元世界2位のペトル・コルダ。その父が全豪オープンでトロフィーを掲げた20年後の2018年、彼は同じ大会のジュニア部門を制したのだ。

 ただ実は、セバスチャンが本格的に父の足跡をたどり始めたのは、9歳の時と遅い。それまでは、父の母国チェコで最も人気のある競技、アイスホッケーに夢中で打ち込んでいたからだ。

 そんな彼にとっての転換期は、ラデク・ステパネクのコーチだった父に連れられ、全米オープンを訪れた2009年。全米オープンが終わり、フロリダの自宅に帰ってきた時、少年は両親の前で宣言したという。

「僕はもうアイスホッケーはやめる。テニスをプレーしたいんだ」

 ちなみに、コルダがテニスへの専心を決意した2009年の夏、当時19歳の錦織は、ヒジにメスを入れツアー離脱を強いられていた。

 それから11年が経ち、公式戦では初対戦となるコルダに敗れた錦織は、「今日の試合では、あまり反省点はない。お互い良いレベルでプレーできていたかなと思います」と素直に相手を称えた。
 
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