専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
海外テニス

立てるのかさえ不確定だった全豪の舞台で、観衆と共に奇跡のカムバックを果たしたナダル「負けるのは、仕方ない」<SMASH>

内田暁

2022.02.01

2022年全豪オープンを制したナダル。ヒザの故障を乗り越えて13年ぶりの戴冠となった。(C)Getty Images

2022年全豪オープンを制したナダル。ヒザの故障を乗り越えて13年ぶりの戴冠となった。(C)Getty Images

「誰にも言っちゃダメだよ……。今、ここにいるんだ!」

 新たな年が明ける、その前日――。ラファエル・ナダルはソーシャルメディアに、そんなメッセージを添えて一枚の写真をアップした。

 テニスコートに笑顔で立つ彼の足元には、大きく「Melbourne」と書かれている。全豪オープンのセンターコートであるロッド・レーバー・アリーナが、彼が「今、いる」場所であった。

「誰にも言っちゃダメ」の言葉が意味するところは、多くのテニスファンや関係者が、そして誰よりも彼自身が、この時期にメルボルンにいられるかどうか、疑いの中にいたからだ。

 昨年6月、全仏オープン準決勝でノバク・ジョコビッチに敗れた後、ナダルはウインブルドンと東京オリンピックの欠場を表明。理由を伝える声明文には、「より長いキャリアを送るためにも、休養が必要だ」と記されていた。

 休養が必要な理由が、単なる疲労ではないことは、8月の復帰直後に明らかになる。ワシントン大会の3回戦で敗れたナダルは、左足のケガを理由に、全米オープンを含む残りのシーズン全試合を欠場表明。9月には「治療を行ない、ケガは回復に向かっている」との説明とともに、松葉づえ姿の写真をアップしていた。
 
 それらケガを乗り越え、全豪オープンの準備に向けていた12月上旬……今度は新型コロナ感染が、手負いのナダルを襲った。「3日間は、完全に身体が“壊された”」と、後にナダルは明かしている。

「メルボルンに来られないのではと思っていた」というのは、偽らざる本音。全豪オープン準決勝でマテオ・ベレッティーニを圧倒し、淡々とラケットをバッグにしまっている最中に突如、両手に顔をうずめ肩を震わせたのは、この半年間に味わってきた失望と希望など種々の感情のうねりに襲われたためだろう。

 いや……ナダルがこのロッド・レーバー・アリーナに立つ時に覚える胸の疼きは、この半年などというスパンに留まるものではない。

「2009年に優勝した時、自分はとても幸せ者だと思った。まさか2022年に、また決勝に来られるとは思わなかった」

 準決勝勝利後に、ナダルはそう打ち明けている。その2009年から2022年までの間、彼はいくつものつらい思い出を、このコートにしみこませてきた。
 
NEXT
PAGE

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号