海外テニス

全豪オープン16強入りの西岡良仁が1年かけて取り組んだ「1グラム単位のこだわり」<SMASH>

内田暁

2023.01.24

西岡は世界の主流となりつつあるパワーテニスに対抗するため、あらゆる側面から改善を図ったという。(C)Getty Images

「あと2年で結果が出なければ、僕、テニス辞めると思います」

 西岡良仁がそう言ったのは、1年前の全豪オープン。初戦で敗れた後の、会見室でのことだった。

 乾いたその口調から、真意を読み解くのは難しい。ただ当時の彼が、様変わりするテニス界の趨勢の中で、新たなテニスを模索し、望む結果が得られず苦しんでいたのは確かだった。

 2020年8月――。新型コロナ拡大による半年の"ツアー中断"が明けた時、西岡は、テニス界の様相が変わったことを感じたという。

「ビッグショットを持っている選手が、もう当たり前になってきた。加えて彼らは動けるし、ゲームセンスがある選手も多い。そこで僕も戦うなかで、最低限のボールの質が大事だと思ったんです」

 2年半前に肌身で感じたある種の焦燥を、西岡はそう述懐した。自身もボールの質を求め、攻撃的テニスを標榜したのもそれが契機。同時にその頃から、"変革の痛み"も始まった。

 一度確立したスタイルを変えるとなれば、当然、プレーを崩す時もある。2021年に右手首を痛めたことも、状況を一層難しくしただろう。昨年の全豪時に口にした「2年」とは、当時の帯同コーチである兄の靖雄とも話し定めた、新スタイル確立への一つの期日だった。
 
「去年ここで試合に負けた後、靖雄くんが、ストリングを変えてみたいと相談に来たんです」

 そう明かすのは、全豪オープン公式ストリンガーチームを率いる、玉川裕康氏だ。

 西岡のストリングは、縦がナチュラル、横がポリエステルが基本。その横に張るストリングを、当時の西岡は色々と試していた。

 2021年の夏までは、「強烈スピン」が売りのポリツアースピン。その後は、「反発性」をキャッチコピーとする、ポリツアーストライクに変えていた。だが、何かが噛み合わない。ボールの威力は上がっても、西岡の持ち味であるコントロールが効かなくなることもあった。

 そこで玉川さんが勧めたのが、「比較的柔らかくて、ボールをつかむ感覚に優れる」というポリツアープロ。はたして昨年の全豪オープン直後にそのストリングに変えた西岡は、出場した最初のATPチャレンジャーで優勝。そこからは、ストリングに変更はない。

「去年の年始の頃は、いわゆるパワーテニスに対して、自分もパワーをつけないといけない、同じように対抗しようとしたんです。それが、良くなかった」

 西岡が、1年前の状況を分析する。
 
NEXT
PAGE
結果を出すたびに周囲から「何を変えた」と聞かれたが……