海外テニス

日米における“コーチ観の違い”とは? ツアーコーチ西岡靖雄が痛感「ジャパンオリジナルを模索する必要がある」<SMASH>

内田暁

2025.05.16

西岡良仁(左)の兄である靖雄氏(右)が、マイアミ・オープンの開催時期に同会場で行なわれたATP/WTAコーチセミナーに参加。そこで感じた日米のコーチ観、指導法の違いについて語ってくれた。写真提供:西岡靖雄

「ツアーの会場に来るのは、3年ぶりですよ」

 3月末から4月にかけ、米国フロリダ州で開催されるテニスツアー「マイアミ・オープン」(ATP1000)。その会場を久々に訪れた西岡靖雄氏は、日に焼けた顔をほころばせた。

 かつては大会関係者から、弟と見間違われ「ヨシ」と声を掛けられることも少なくなかった。それが今では、彼の名と顔を知っている者が大半。自らの実績で、「西岡良仁の兄」ではなく「ツアーコーチ」としての認知を獲得してきた。

 弟のコーチとして長くツアー帯同もしてきた彼が、ここ3年ほどツアーの最前線から離れていたのは、女子の若手選手たちに付いていたことが大きい。世界24位、ツアー3勝を誇る良仁の存在が、靖雄氏のコーチキャリアの原点。そこからスペインでのコーチ修行を経て、輿石亜佑美や佐藤光、坂詰姫野ら複数のプロ選手に携わった。2022年末には、韓国のパク・ソヒョンのコーチに就任。当時400位台だった新鋭のシングルスランキングを、1年で200位台にまで引き上げた。

 そんな"現場主義"とも言える道を歩んできた彼だが、パク・ソヒョンとの契約を終えた時点で、"コーチ資格"の習得に取り組み始めた。時間的余裕が生まれたこともあるし、指導法を体系的に学びたいとの思いもあったという。
 
 そこで、日本テニス協会公認の"S級エリートコーチ"を修得すると共に、マイアミ・オープン会場で履行されたプロテニスコーチセミナーも受講した。受講資格は招待制。受講者は"RSPA(旧USPTA)および、"PTR"の指導者資格が得られるという。なおRSPAは「Racquet Sports Professionals Association」の略称で、米国のテニス選手、ビンセント・リチャードが1927年に設立した団体が起源。PTRは「Professional Tennis Registry」で、1976年に米国でコーチ養成機関として発足した。

 それら米国発信の指導メソッドは、S級コーチのそれとはかなり異なったと西岡は言う。もっともその差異は、トッププロ指導を目的としたS級コーチと、「テニス愛好家やジュニア指導者が対象」だというマイアミとの相違もあったようだ。

 その上で靖雄氏は、次のように語る。

「あくまで自分が受けた講習での比較になりますが、一番の違いは、日本ではテニスの歴史や精神性を学び、アメリカではビジネス面を教わったことでした。アメリカの講習では、データを基にお金につなげる話がすごく多かったんです。

 例えばテニススクールを経営する上で、その地域のテニス人口がどのように推移しているか? どのような人たちが住んでいるエリアで、年齢層はどれくらいか? ファシリティはテニス以外にも使われているのか...など、色んなデータを用いて、どのような運営が相応しいかを考えていくことを教わりました。

 日本では、選手とコーチは師弟関係という感じで、心や感情が伝わる。アメリカでは、師弟関係的な側面もありますが、基本はビジネスパートナーという捉え方だと感じました」
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靖雄氏が痛感した男子テニスの進化