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【名馬列伝】“弾丸シュート”の如く強敵を撃破したサッカーボーイ。常識を覆した夏の北海道遠征が運命を変えた

三好達彦

2023.07.18

マイルCSを制したサッカーボーイ。写真:日刊スポーツ/アフロ

 JRAが製作する「名馬ポスター」は馬券に熱くなりがちな競馬場でも、しばしばファンの目を楽しませてくれる。写真に短いキャッチコピーが添えられただけのシンプルなものだが、1980年代の終盤に活躍したサッカーボーイに付けられた文言は、『弾丸シュートだ!』のハマりっぷりに感心し、しばらくポスターの前で足を止めて眺め続けたことを覚えている。

 サッカーボーイの父はディクタス。のちに、タイキシャトルが優勝した際に日本でも有名になった欧州の代表的マイルG1のひとつ、ジャックルマロワ賞(仏G1、ドーヴィル・芝1600m)を1971年に制した名馬だ。

 1972年からフランスで種牡馬入りして手堅い成績を残していたことを評価し、社台グループが購入。1980年から日本での種付けを開始するや、初年度産駒のスクラムダイナが朝日杯3歳ステークス(GⅠ、中山・芝1600m)を制する活躍を見せ、1984年度の新種牡馬ランキングでチャンピオンに輝いた。

 折しも、社台グループが繋養していたチャンピオンサイアー、ノーザンテースト産駒の牝馬が数多く繁殖入りしていた時期。その交配相手として、血統的にアウトブリード(近親交配とならない配合)で、成績面でも上々の滑り出しを見せていたディクタスは打って付けの存在となった。

 そんな状況のもと、ディクタスとノーザンテースト牝馬のダイナサッシュを配合して誕生したのが栃栗毛の牡馬。それが、サッカーボーイだった。
 
 1987年、夏の函館でデビューしたサッカーボーイは、不良馬場となった新馬戦(芝1200m)を2着に9馬身差を付ける逃げ切りの圧勝で飾るものの、続く函館3歳ステークス(GⅢ、芝1200m)は後方から追い込み切れず4着に終わる。

 しかし、栗東トレセンへ入ってから、彼は恐ろしいまでのポテンシャルを発揮する。オープンのもみじ賞(京都・芝1600m)で2着に10馬身差を付けて楽勝すると、続く阪神3歳ステークス(GⅠ、阪神・芝1600m)も直線に向いてラクに抜け出すと、2着に8馬身差を付ける驚愕のパフォーマンスで勝利をものにした。

 翌日のスポーツ紙には、『名馬テンポイントの再来か』と色めき立つ見出しが躍った。当時のJRA賞では、東の朝日杯3歳ステークスの勝ち馬と、西の阪神3歳ステークスの勝ち馬を比較して、どちらかがチャンピオンに選ばれるという図式になっていたが、この年は朝日杯を勝ったサクラチヨノオーに大差を付けてサッカーボーイが最優秀2歳牡馬に選出された。無論、それは翌年に控えるクラシック戦線での主役となることを意味した。
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